その他
□次は絶対忘れないよ。
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「宮地はいいよね」
「あ゛?何がだよ?」
「誕生日。11月11日ってすごく覚えやすいし、祝い方もさ…思いつくじゃん」
「…ポッキーの日って言いたいのか?轢くぞ」
「あー、またそんな物騒なこと言って。
私の誕生日、何もない日で覚えにくいから羨ましくて言ってるんだよー」
クスクスと笑う名前に、宮地は軽く舌打ちした。
同級生でマネージャーな彼女に、1年生のときからずっと思いを寄せている。
家の方向が同じだから、帰り道はだいたい一緒だ。
今だって、こうしてしゃべりながら歩いている。
残念なことに“友達以上恋人未満”より先に進める予感はない、が。
ただ、宮地が舌打ちした理由は、それだけではなかった。
――今日がその11日なんだけど、お前、忘れてんじゃねぇか。
と、毒づいているのである。
誕生日が覚えやすくても、それが今日の日付と結びつかないなら意味がないのだ。
もっとも、彼女がどこか抜けているのは百も承知。
そこも、好きな理由の1つである。
ただ、
「…俺は、お前の誕生日覚えてるけどな」
宮地の思わずこぼした言葉に、名前は目を丸くした。
「どうして?」
なんて首をかしげる。
宮地は大袈裟なため息をついたあと、黙ったままカバンをゴソゴソしだした。
何故だろうか。ヤキモキしたからか。
取り出したのは、高尾が
『宮地さん、誕生日おめでとうございます!』
と言いながら押しつけてきた、ポッキーの箱。
困惑気味の名前をよそに開封すると、一本くわえる。
そして逆端を彼女にくわえさせた。
ポリポリと、所謂ポッキーゲームのように食べ進める。
宮地の性格らしからぬ行動だが、名前は逃げようとしなかった。
唇が近付くにつれて瞳を瞑ったから、逆に宮地が困惑した。
ちゅっ
と、軽く触れると、宮地はババッと彼女から離れる。
「んー、宮地が言いたいこと、なんとなくわかる気がする」
名前が、笑顔で言った。
「……轢くぞ」
と、照れ隠しで呟く宮地の手をとる。
「好きな人の誕生日、忘れるわけないもんねぇ…。
私、好きな人、失格かもしんないや」
「……あ?」
プレゼント、今のキスってことでいい?と首をかしげる名前に、
敵わないなと宮地は苦笑する。
『好きです』も『おめでとう』もないままに、
宮地の誕生日が“恋人記念日”になった瞬間である。