その他
□お前から美しい予感がする
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「……平門」
名前は感情の読み取りにくい表情のまま、平門を呼び止めた。
呼ばれた彼は振り返りながらも微笑を浮かべる。
スクールからの同期である二人は、言ってみれば“友達以上恋人未満”の関係。
無表情で取っつきにくい、と言われがちな名前だが、実は人見知りで口下手なだけ…と知っているのは平門と朔くらいだ。
そういう意味では親密な仲だと言えるが、平門はそれくらいで満足できるほどオトナでもなく、またコドモでもない。
「どうした?もう遅いから、寝た方がいいぞ」
「…ん、ちがうくて」
「なんだ?」
意地の悪い聞き方になっていないか、平門は注意を払いながら言う。
名前はチラリと彼を見上げて、後ろ手に隠していたものを差し出した。
「…お誕生日、おめでとう」
恥ずかしそうに、彼女が言った。
差し出されたのは高そうなワイン。
思わぬプレゼントに、平門は口元に手をやる。
口下手な彼女が「おめでとう」というのはハードルが高いはずだ。
彼女は、本当は酒も苦手だ。
いつもの平門なら。
ありがとう、と笑顔で受けとる。
そして先程と同じ「遅いから早く寝ろ」と声をかける。
でも今日ばかりは、悪戯心が膨らんだ。
ワインを持つ名前の手をそっととる。
ビクリ、彼女の緊張が伝わる。
平門はそのとき初めて、彼女の指がいつもと違う色に塗られていることに気付いた。
ワインレッドのマニキュアだ。
「…いつもはつけてないが」
「え…あ、これは朔がこの前、くれたから」
「…朔」
「う…あの、ひら…」
平門、と名前が名を呼ぶのを遮るかのように、
平門は彼女の指に口づけた。
「妬けるな」
囁くように言ってやると、名前はみるみるうちに赤面した。
そして戦闘中でも見られないようなスピードで逃走。
それを見送りながら、平門は何度目かの苦笑を浮かべる。
とりあえず、少しでも進展すればいいかと思いながら、
誕生日にもらったプレゼントを反芻するのだった。