その他

□誰の人生にも寡黙で寂しい雨が降る
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正守は縁側に座る名前を見つけ、それでいて声をかけるのを躊躇した。

外は雨が降っている。
そんなところにいては濡れてしまうぞ、と言えばいいだけの話なのに、彼にはそれができなかった。

何故なら、名前が泣いているのだと、後ろからでもわかったから。

理由は簡単に思い付く。

今日、名前が出向いた任務で多くの死傷者が出たのだ。
不測の事態というか、読みが甘かった。
中にはまだ幼い異能者もいて、きっと名前はそれを悲しんでいるに違いない。

正守は、どうしようかと頭をかいた。

仲間を傷つけられて憤る気持ちは彼にもあるが、名前の涙は、彼にはない類いの優しさが含まれている。
正守がもつ優しさと名前がもつ優しさは、どうやらベクトルが違うらしい。

――名前の方が、よっぽど純粋だな。

と苦笑したとき。

「……頭領?」

名前が、涙を拭いながら振り向いた。

退くに退けなくなって、正守は彼女の隣に座る。
すると名前はまた、視線を雨に向けた。

「……お前のせいじゃないだろ、みんなが怪我したのはさ」

「……はい」

「お前だって、軽傷とはいえ怪我したんだし、今は…」

「頭領」

正守の言葉を遮ったのは、思っていたよりもずっと冷たい、名前の声だった。

「私…別に、自分を責めてるわけじゃないんです。
悔しいとか、そういうのも、頭領より全然、少ないと思います」

シトシトと、雨が地面に吸い込まれていくのがわかる。
正守は少し驚きながら、名前を見つめた。

「私は、ただ…これを糧にしようと思ってるだけです。
今は憎しみを洗い流してる、それだけです」

と、彼女は、今日初めて笑みを浮かべた。

まだ悲哀の色が浮かぶその表情は、ドキリとするほど綺麗だった。

正守は困ったように笑って、

「やっぱり、優しいな」

と言った。

拒絶、憎悪、嫉妬、そういった類いのものは彼にとっての強さであり、糧だ。
しかし名前は、それらを純粋に洗い流してしまうらしい。
敵わないな、とも思った。

名前には、正守の真意がわからなかったけれど、雨の音と匂い、そして少し触れた正守の手の温かさが“そんなの心配ないよ”と告げていた。

だから、また、さっきまでと同じように雨を見つめるのだ。
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