その他

□想到インバランス
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「お茶、ここに置いておきますね」

「ん?ああ…、ありがとう」

夜行の本部に戻ってきた正守は、ひどく疲れた様子だった。
まじない班と救護班を掛け持ちする名前には…いや、そうでなくとも、彼の疲労具合は見てとれる。

だから名前は、そのまま黙って退出しようとした。

が、それを、正守は止めた。

しっかりと名前の右手首を掴むその手はまるで泥沼から助けを求める手のようで、名前は思わず、悲哀の色をみせた。

――いけない。

慌てて、その色を振り払った。

「名前はさ…」

正守がポツリ、言葉を紡ぐ。

「俺がどんなんでも、ついてきてくれるか」

懇願ともとれる言葉だった。

名前は、夜行の創設時から一緒にいる。
だから、正守がその強さの裏に“青さ”や“暗闇”を持っていることも痛いほど知っていた。

そんな彼が、こんな風に言うとは。

名前に、振り払ったはずの色がまた戻ってきた。
正守にはとっくに気付かれているだろう。

彼女は、次は隠すこともせずに、正守に顔を近付けた。

そして――

こつん。

自分の額と正守の額を、そっとぶつけた。

「……名前?」

「今のは、まじないみたいなものです。
頭領はもう、一人じゃないんですから。それを忘れないように、と」

呪力を込める類いのものではない。
子供が小指を絡めて約束するような、そういうまじない。

名前は自分の表情に浮かんだ色を込めただけだった。

それでも、正守には効果があったようだ。

「やっぱり、名前には敵わないよ」

と、彼は額に手をやりながら笑った。

その手にはさっきまでとは違う何かが握られている気がして、
名前は安心したように頷いた。
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