その他
□飛沫に映る君みたい。
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「凛、見て!ラッコ!
背泳ぎ上手だねぇ。あ、バックって言うんだっけ?」
「おー」
「あれ?ラッコ嫌い?」
表情がコロコロ変わる自分の恋人・名前を見下ろしながら、凛は苦笑した。
「…嫌いじゃねーけど」
と返事すると、名前はたちまちふわりと笑顔になる。
――後輩に“日本海のラッコ”がいるなんて言えねぇ…。
凛はまた苦笑して、ガラスの向こうのラッコに視線をやった。
鮫柄学園は全寮制で、さらに水泳部の練習はほとんど休みがない。
そのため、デートは数えるほどしかしたことがないのだ。
水族館に連れていってやる、と言ったときも名前は嬉しそうにしていたが、このペースだと、順路を進むたびに笑顔になるだろう。
凛としては、場所がどこであろうと、それだけで満足だ。
「次はペンギンがいるみたい。行こ!」
名前は、その表情と同じように興味の対象もコロコロ変わる。
凛の手をとると、スタスタと進んだ。
「かわいいねー」
ガラスの向こうのペンギンに、名前はニッコリと笑う。
――「お前の方が」なんて言えるわけねぇよな…。
凛は結局、最後までそんな調子で名前のあとをついて歩いたのだった。