その他

□ほかでもない。
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※『寄り添う理由。』の夢主


「ただいま帰った」

と声をかけながら、蒼世が帰宅した。

今までは家を空けることが多かった彼も、名前と“夫婦”になってからはそれも減った。
名前はそれを、純粋に喜んでいる。

「お帰りなさいませ」

と出迎える声も、前より明るい。

その様子を見てか、蒼世は口に笑みを含ませる。
もう一度「ただいま」を言ったあとで、上着のポケットから何かを無造作に取り出した。

「これを」

と、やはり無造作に、名前に差し出す。
包装すらされていないそれは、派手ではないながらも凝った造りで質の高い、簪だった。

「……私に、ですか?」

名前は戸惑いながら受け取り、簪を見つめる。
このようなプレゼントをされるのは初めてだ。

簪から蒼世に視線を戻し、言外に問う。
どうして、と。

「……佐々木が、女は贈り物をされると喜ぶと言うから、もののついでに」

蒼世が、頬をかきながら言う。

女にうつつを抜かすのをよしとしなかった彼にとって、今の生活は手探りなのだろう。
だけど、名前のためを思ってくれているとなると、自然と笑顔が浮かんだ。

「嬉しいです。ありがとうございます」

「…ああ」

「しかし蒼世さま。ひとつ、間違っておいでです」

「…なんだ?」

蒼世は“間違っている”と言われて少し顔をしかめた。
だが、そのあとに続く名前の言葉はしかめっ面を融解させるのには十分であった。

――「他の誰でもなく、蒼世さまだから、嬉しいのですよ」
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