その他
□寄り添う理由。
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『今は女に構うようなことはできない。
結婚といっても家同士が決めたことだ。
好きにしろ。他の男の元へ通おうと、私は気にしない』
と、初夜に言われた。
名前は若くして安倍家に嫁いだからには、それなりの覚悟をもっていた。
しかし、夫である蒼世にいきなりそう言われ、どうしたらいいかわからなかった。
そして蒼世は言葉に違わず、名前に構わなかった。
夫婦らしいことは何一つしようとしなかった。
それでも。
いや、だからこそ、名前は新たに覚悟を決めた。
安倍家に嫁いだ事実は変わらない。
夫がかまってくれないからといって
他に男をつくり、好き勝手するのは単なる“逃げ”である。
ならば、
自分なりのやり方で彼を支えていこう、と。
そうして数年の月日が流れ、
明治11年――
ついに大蛇が消滅し、近江の雲が晴れた。
知らせを聞いた名前は緩んだ頬を自覚した。
ここ最近、夫である蒼世はずっと家を空けている。
これを期に帰ってくるだろうかと、嬉しさが込み上げた。
しかし、帰ってきた蒼世をみて、緩んだ頬はまたグッと引き締まった。
彼が、怪我を負っていたから。
名前はまた覚悟を決めて、蒼世の身のまわりの世話をすることにした。