その他
□美味しい、が聞きたくて
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「宗介、こっち向いて」
「ん?」
「はい、あーん」
「いや、やらないぞ」
「ケチー…」
山崎は、自分の脚の間で体育座りをする名前を見下ろす。
名前の手には、自分で作ってきたというクッキー。
今は実家の自室で二人っきりなので、
別に“あーん”くらいやってもバチは当たらない。
いつもの山崎なら、素直に口を開けている。
しかし、今日に限ってそれをしないのは、単純なイタズラ心からだった。
名前はむっと口を尖らせながらも、手にしたクッキーを自分で食べ始める。
――拗ねたか?
山崎はその様子を見て首をかしげた。
が、それが隙になった。
「えっ」
一瞬のことだった。
名前はくるっと山崎の正面を向き、クッキーをくわえたままぐっと近づいたのだ。
結局、山崎は口移しされてクッキーを食べるハメになった。
してやられた、と思った。
「おいし?」
と、なに食わぬ顔で名前が訊く。
――いつの間にこんなん覚えたんだよ…。
山崎は呆れながらもクッキーを咀嚼し、飲み込むと、次は自分からキスをした。
顔を赤くする名前に
「……美味いな」
と言うと、彼女の顔がさらに赤くなるのは想像できるので、山崎は次の一手を考えながらその一言を言うことにした。