ハイキュー!!

□白湯漬けの簡単さ
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「あれっ、菅原先輩?どうしたんですか、もう消灯時間過ぎましたよ?」

消灯時間の過ぎた合宿所の台所。
マネージャーの名前が明日の朝食の仕込みを確認していると、
ひょっこりと菅原が現れた。

「消灯時間過ぎても部屋で寝てないのは、苗字も一緒だべー?」

「えっ、それは…」

ごめんなさい、ぺこりと頭を下げると、
菅原はいつもみたいな笑顔で「大地には黙っとく」と言った。
そして、

「実はお腹空いちゃって、なんか食べるものないかなって思ったんだけど」

とも続けた。

夕食は皆、モリモリ食べた。
菅原だって、後輩たちに負けず食べていた。

それでもお腹が空いたと言うのだから、やはりバレー部の練習はハードなのだろう。

名前は少し考えて、思い出したように冷蔵庫をあけた。
中から取り出したのは、ラップで包まれた白飯。

「明日チンして食べようと思ってたんですけど、よかったら、どうぞ」

「え?明日は明日で飯炊くだろ?」

「はい。でも、今日少しだけ残ったので、その分は私が…と。
みんなには炊きたてを食べてほしいので」

「…ふぅん」

菅原は、名前と、彼女が手に持つご飯とを交互に見やる。
彼女がそんな気の回し方をしてくれているとは思わなかった。
きっと、主将や顧問も知らないだろう。
知っていたら、自分が食べると言うだろうから。

「じゃあ、それ貰う」

「はい。あっ、おかずは特に無くて…お茶漬けにしますか?」

「いや、白湯でいいや。面倒だし」

「わかりました」

名前は笑顔で返事して、
ご飯を電子レンジにセットし、お湯を沸かし始める。

菅原がその様子を和みながら見ていると、
しばらくして白湯をご飯にかけただけの食べ物がテーブルに出てきた。

そこまでしてもらったことを若干申し訳なく思ったが、
空腹には勝てず、箸を取った。

ずず、ずず、と、啜る音だけが聞こえる。

すぐに食べ終わって、菅原は手を合わせた。

「ありがとな、助かった」

「いえいえ、とんでもない。
でも、さすがにそろそろ寝ないと澤村先輩に怒られますかね」

「あー、かもな」

どちらからともなく、二人に笑いが溢れる。
そして、どちらからともなく、席を立った。

「まぁ、これで、明日の朝も苗字は同じように炊きたてご飯が食べられるな」

「ふふ、そうですね。菅原先輩のおかげです。みんなに自慢しなくちゃ」

「ははっ。あー、でも」

名前が寝る部屋の前まできたとき、菅原は足を止めた。

「やっぱり、大地や他の連中には内緒にしたいな」

少し、いつもと違う笑顔だった。

静かな合宿所で、その言葉はすごく間近に聞こえた気がした。

名前が返答に困っていると、菅原はまたもとの表情に戻っている。

「おやすみ、ゆっくり休みなよ」

と去る彼を、呆然と眺めつつ、名前は何となく顔が火照るのを感じた。

それがどうしてだかは、よくわからなかったが。
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