ハイキュー!!

□一粒ちょうだい。
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「何やってだ、お前」

「あっ、黒尾先輩…」

これは、その、えっと、と慌てる名前を見て、黒尾は苦笑した。

何やってんだ、と言ったのは
名前が部活前の体育館で、壁を相手にバレーボールを打っていたからだ。

マネージャーで二年生の名前は、中学までは女バレで活躍していたらしい。

怪我したから高校では選手はしない、と笑いながら入部してきた名前だが、
もしかしたら未練があるのでは…と、たびたび部員の間で話題に上っていた。

「いや、怒ってるわけじゃねぇぞ」

「あ、はい…」

「でも…あれだな。音駒はマネージャーまでレシーブが上手いんだな」

「…ふふ。私、リベロだったんです」

強張っていた表情を少し緩めて、名前は言った。

うっすら汗ばんでいたが、息はあがっていない。
慣れた手つきでボールを片付けるところを見ても、
彼女が今までバレーに関わってきた時間の長さが窺えた。

「名前…、バレーやりたいのか?」

黒尾は、今まで訊くことができなかった質問をぶつけた。
授業と部活の間の絶妙な空間が、
そうさせたのかもしれない。

名前は一瞬、きょとんとしたが、意味を理解すると困った顔になる。
そして、ジャージのポケットからキャラメルの箱を引っ張り出した。

「先輩、あーん」

「え、あ…」

一粒、黒尾の口にキャラメルが放り込まれる。
次は黒尾がきょとんとする番だった。
これと一緒です、と名前は言う。

「バレーをするのは楽しいです。
みんながプレイするのを見て、いいなって思うときもあります。
でも、今はそれ以上に、
みんなが勝つための汗のうち、一粒だけでも…私が関われたらなって、思います」

あまり自分のことを話さない名前の吐露。

「私では、だめですか」

「……いや」

黒尾は、その表情と言葉にドキリとした。
口の中の甘ったるさを舌で弄びながら、言葉を探す。

しかし、結局、みつけられなかった。

だから、

「……ん」

そっとキスをして、甘ったるいキャラメルを名前に移した。

「せ、先輩…」

「これと一緒だ」

さっきの名前の言葉を借りて言うと、
自然と二人から笑みがこぼれた。
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