ハイキュー!!

□「君らしく、」
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「烏養くんがコーチ?」

「だから、さっきからそう言ってんだろっ。
何だよその顔…悪いかよ…」


烏養はむすっとした様子で、煙草を一本取り出して吸おうとした。

しかし実行には移さず、また箱にしまった。

その理由は、彼の目の前でシャクシャクとアイスをかじる女―苗字名前だ。

彼女は煙草が嫌いとは言っていないが、
好きと言わない以上、目の前で喫煙するのは避けたいのである。

らしくもない気をつかうくらいに、
烏養は彼女のことが好きだった。

名前は、烏養が男子バレー部に所属していた頃のマネージャーだ。

同級生だった彼女は、東京の大学に進学してそれっきりだった。

それが久々に帰省してきたというのだから、烏養は内心舞い上がっている。

性格上、少しも表には出していないが。

「…吸わないの?」

名前が煙草を指差す。

こっちの気も知らないで…と思うが、
彼女が目敏いのは昔からだ。

「お前が嫌がるかと、気ぃつかってやったんだよ」

ちょっとした反抗心で、烏養は言う。

「私が、烏養くんのすることに文句つけたことってあったっけ?」

「今だって、コーチしてるって聞いて妙な顔になったじゃねぇか」

「妙な顔?」

どんな顔だろう…と、名前は一瞬首をかしげたが、すぐに、別のものに意識が移る。

「みて、烏養くん。あたりだっ」

「……そーかよ」

「もう1つ、もらっていい?」

ぐっと距離を寄せて、名前が問う。

いくつになっても少女らしさが抜けない彼女がやると、計算かと疑う気すら起きない。

それでも、烏養はどきりとして、目をそらした。

名前は烏養にお構い無しで、アイスのケースに向かう。

「うーん、でも、今食べると食べ過ぎだから、帰って弟にあげよっかな…。
あ、もう夕飯の時間だ。
帰らないとねー」

などと言いながら、わざわざ下の方からアイスを取った。

「…お前、いつまでこっちにいるんだ?」

「え?明日の夜のバスで帰るよ。
ほんとに、顔みせにきただけだから」

“帰るよ”

東京が帰る場所だと言う名前に、烏養は少し寂しさをおぼえる。

煙草のことも、彼女の表情も、馬鹿馬鹿しいことだった気がして、心の中で毒づく。

「じゃあ、私、帰るね」

名前はそう言って、ドアに向かった。

おー、と気のないような返事をすると、ふと彼女が足を止めた。

「さっきの話だけどね」

「ん?」

「バレーも、コーチも、煙草だって、
烏養くんがすること、私は全部、好きだからね。
昔っから、文句つけたことなんてないからね」

「……っ」

「コーチの話だって、
妙な顔って、烏養くんは言ったけど、
バレーやってる烏養くんは、昔っからかっこいいから、だからなんだよ」

それじゃっ、と、名前は店を飛び出していった。

言い逃げかよ、とか、いまのはどういう意味だ、とか、

言いたいことはいっぱいあったが、

とりあえず烏養は、煙草をもみ消して彼女のあとを追った。

彼女の言葉を借りれば、昔っから、奔放してくる名前が好きだった。
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