東京レイヴンズ

□偶然の遭遇の必然性は。
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国立図書館。
日本のすべての出版物が集まるただひとつの図書館である。

そのなかには陰陽道に関する書物も含まれる。
名前は仕事の合間に訪れては、それらの書物を読み漁るのが楽しみであった。

広い館内で、陰陽道コーナーは過疎地帯だ。
この業界の排他的な側面をみごとに表している、と名前は嘲笑した。

が、すぐに驚きの表情に変わる。

先客がいた。

しかも、見覚えのある少年――

「土御門…春虎、くん?」

「えっ!?あ…苗字さん!?」

声をかけると、少年―春虎はわたわたと手元の書物を片付けようとした。
それを名前が止める。

二人は、以前名前が陰陽塾を訪れたときに顔を合わせている。
今まで“土御門夏目”しか注目していなかった彼女だが、
大友が用意した呪具をオーバーヒートさせたことがあると聞いては、興味が湧かない訳がなかった。

「よく来るの?
あまり勉強熱心なタイプではないと、陣が言っていたけど」

と声をかけながら、春虎が見ていた書物に目をやった。
随分と古いもので、プロの陰陽師ならともかく、塾生が試験勉強に使うのにはそぐわない。

チラ、と名前は春虎の横顔を見る。
彼はばつが悪そうな顔で

「たしかに勉強は嫌いですけど…。
この前、大友先生が使っていた術を調べようと思って…」

と言った。

この前、というのが『D』襲撃事件のことだというのは考えずともわかる。
そのときの様子は、大友を見舞ったときに少し聞いた。

どんな術を使ったかまでは知らないが、あの蘆屋道満と“術比べ”で勝負したというのだ。
其処らの汎式ではなく、古文書をひっくり返しても出てくるか出てこないかの古の術を駆使したに違いない。

「どんなだったの?」

と、名前は純粋な興味で訊いた。

春虎ははじめ戸惑ったが、すぐに呪術戦の話をするのに熱くなった。
幸いにも、周りに人はいない。
名前は欲しい情報をうまく引き出しつつ、笑顔で“師”の武勇伝を聞いた。
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