東京レイヴンズ
□1.5人と1.5匹。
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名前は訓練を終えて自室に帰ってきて、その部屋に違和感を覚えた。
――呪的防壁が無効化されている。
彼女は普段から、他者の侵入を拒むための結界を部屋に張っている。
簡易的なものだが、普通のドアキーと併用すれば防犯としてはほぼ完璧であると言えた。
しかし、今の状況ではそうは言えない。
名前は慎重に部屋に近づき、ドアノブを捻る。
案の定、鍵も開いていた。
そっと開けるとそこに――
「…ゼンタロー」
黒犬の式神が、壁際に寝そべっていた。
それを見て、名前は大げさにため息をつく。
つまり、呪的防壁を無効化した上、
簡易式か何かでピッキングまがいのことをしたのは、大友陣だということだ。
ゼンタローは、大狐の生成りである名前には妙になついていて、
耳を向けるだけでなくて顔を上げて彼女を見つめている。
名前はそれにも脱力しつつ、
ソファに近づいた。
「陣、勝手に入ってきて寝ないでよ…」
と声をかける。
ソファでスヤスヤと眠る大友に、何度目かのため息をつきながらも、
名前は結局放置してシャワールームへ向かった。