東京レイヴンズ

□パン屋さんのラスク
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名前は仕事の格好のまま、見かけたパン屋に入った。
小腹が空いては、このあとの夜勤に支障を来す。

入ってすぐのところにあるトレイとトングを手に取りながら、
視線は陳列棚に流れている。

――今日は弓削さんと一緒のはずだから、お土産用も要るな…

と思いながら、店内を見ていると、誰かに肩をつつかれた。

「天下の十二神将サマも、庶民のパン屋何かに買い物にくるんですね」

「…その言い方は、失礼だと思うけど」

「苗字さんに対してですか?
それか、このパン屋に?」

「両方。わかってて言ってるくせに」

違いない、と言いつつ、名前の肩をつついた男―阿刀冬児は笑った。

彼をはじめとする、土御門夏目の周辺の塾生たちと名前は、
上巳の再祓の直後に会ったことがある。

事件当日は彼らと接触しなかったが、
後日、倉橋長官や宮地室長の代理で陰陽塾へ謝礼に行った際、会った。
今まで、年の近い者と話す機会が乏しかった名前が彼らと話すのを、
大友はニコニコと見ていたものである。

「そういう冬児くんも、何か意外。
こんなパン屋に来るなんて」

「それ、失礼ですよ」

「わかってる」

「やっぱり、苗字さんって面白い人ですね」

冬児は、ピザトーストをトレイにのせながら、また笑った。

だが名前は、冬児の方が“面白い”と思う。

タイプ・オーガ―鬼の生成りだからだ。
それもただの鬼ではないとなれば、
同じく動的霊災を身に宿す名前の興味を惹くには十分なのだった。

しかし、それは冬児も同じなのかもしれない。

とにかく、お互いにどこか緊張感をもって接していた。
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