東京レイヴンズ

□野菜ごろごろシチュー
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部屋の奥にある台所で、名前は寸胴鍋を見つめている。
中でコトコトと音を立てているのは白い方のシチューである。

料理が好きな彼女はいつもルーを使わずにシチューを作るが、
今日は某食品メーカーが売り出しているお手軽なルーを使用していた。

ちらり、とソファに視線を向ける。
そこでは、疲れた様子の木暮が腕を組んで目を閉じていた。
寝ているかはわからないが、
消費した体力や呪力をこんこんと溜めているような感じだった。


しばらくして、ピピピ、とタイマーが鳴る。
名前はいつもより大きめに切った野菜にも火が通っていることを確かめると、火を止めた。
皿に盛り付け、木暮のもとへ運ぶ。

「禅次郎、できたよ」

「ん?ああ、すまん」

「久し振りだから、あんまり自信ないけど。
たくさんあるからおかわりしてね」

「ああ」

どちらともなく手を合わせ、いただきますを言ってからスプーンを手に取った。


実は今日、シチューを作ったのは木暮のリクエストである。
寒い、寒いと言いながら部屋に駆け込んできた彼をむげにはできないし、嫌がる理由もなかった。

「おいしい?」

「うん」

「よかった」

「…ああ、でも、やっぱりいつもの方が美味いな」

「…じゃあ、今度時間あるときにまた作る」

「うん」

会話が途切れ、また黙々とシチューを口に運ぶ。

木暮の仕事が多忙なのは、彼が独立官であるというだけでなく、
鏡の粗暴さや名前の未熟さも、少なからず理由だ。

だから、名前は何か声をかけることもできずにいる。

そんな彼女には構わず、木暮は皿を空にした。

「おかわり、よそってこようか」

「あー…、いや、そろそろ戻らないといけないから、いいや」

「え、もう?」

頷きながら、木暮は愛刀を手にして立ち上がる。

名前は彼を見送りながら、テーブルの上の皿をちらりと見た。

「また来るよ、本当に美味かった。ありがとう」

と言って頭を撫でてくれる木暮にあいまいな笑顔を浮かべつつ、こっそり唇をゆがめる。


一気に飲み込むには具が大きすぎるシチューが、木暮の心を休めてくれていたらいいなと思いながら。
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