東京レイヴンズ

□不服申し立て。
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「…あっ」

名前は向こうからやってくる男を見つけて、廊下を歩く足を止めた。

同じく独立祓魔官の、鏡怜路だ。
彼は十二神将のなかで最も名前と年齢が近い人物でもあった。

鏡も名前に気づいたらしく、ニヤリと笑って足を止めた。

「よう、名前。久しぶりだったか?」

「うーん、鏡とは、久しぶりかも。
禅次郎や弓削さんとはよく一緒になるんだけど」

「だろうよ。俺はなかなか首輪を外してもらえないしな」

「わかっているなら、もう少し何とかしたらいいじゃない」

名前が鏡のアクセサリーを指して言うと、
何とかねぇ、と鏡は鼻で笑う。

彼は名前を毛嫌いしたりだとか、そういうことはしない。

力の強い者は認め、またその中には名前も含まれていた。

“あの”大友に師事していたり、
親に依り代として使われて生成りになったという経緯だったり、
その動的霊災を使いこなしていたり…と、面白い対象であることは間違いない。

名前も鏡の強力な呪力を知っているため、
彼のことを軽んじることはなかった。

鏡に対する大友の態度をつぶさに見ていても、
それをそのまま名前自身の姿勢に持ってくるようなことはしない。


そんなわけで、お互いに妙な距離感で接していた。

いつもならこのまま、別れるところである。
ただこの日、鏡はいつもとは違う態度を示した。

「そういやお前、俺の方があの人たちよりタメだってのに、鏡って呼ぶよな」

「どういうこと?」

「木暮センパイとか大友センパイのことは下の名前じゃねぇか」

「あー、うん」

「あー、うん…じゃねぇよ。
何でだ?お前のイイ子ちゃんな性格だったら、もっと敬うだろ」

「イイ子ちゃんって…」

名前は苦笑しつつ、鏡のサングラスの奥を見る。
イイ子ちゃんかどうかはともかく、彼の言うことはわかる。

基本的に名前は、目上の人を“苗字+さん”や“苗字+役職名”で呼ぶ。

おそらくこれは一般常識的だが、
木暮と大友に対してだけは下の名前を呼び捨てにしていた。

ただでさえ、幼いころから面倒をみてくれている“先生”なのに、
これは不自然だ。

「最初は先生とか、さん付けで呼んでたよ。
でも陣が『乙種は恐いから呼び捨てにしぃ』って言って」

「はっ、あの人の会話は乙種だらけじゃねーか」

「まぁ…。
でも、何でそんなこときくの?
鏡も下の名前で呼んだ方がいいの?」

「ああ?俺はいい」

あの人らと一緒はごめんだ、と鏡はまた鼻で笑う。

会話が途切れたので、別れ際だ。
名前は軽く手をあげて挨拶し、鏡と別れた。

結局、質問の意図は聞き出せなかったが、
今度「怜路」と呼んでみるのもいいかもしれないと思いながら
名前は少し口角を上げた。
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