東京レイヴンズ

□変わらない、でいてほしい。
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闇鴉、と呼ばれることもあるほど、テレビに映る祓魔官たちは真っ黒な装いだ。
制服として揃って身に纏う防瘴戎衣がそうさせる。

名前も、仕事中は例外ではない。
既製品をアレンジしてコートのようにして羽織っている違いはあるが、基本、コートの下まで黒い服を着ていた。

そんな彼女が、今日は年相応の私服姿で駅の改札前に立っている。
鈴鹿のような派手な格好ではないにしても、彼女の日常ではあまりお目にかかれない装いだった。

勿論、それには理由がある。

名前のケータイにはその理由である一通のメールが、ずっと映し出されていた。

『次、休みいつや?よかったら会えへんか』

簡潔な文章。

らしくない内容。

文面だけでわかる、胡散臭い関西弁。

元十二神将・大友陣からのメールだ。


――そっちからは連絡しないって言ってたくせに。


名前は、彼がどういう人間か少しはわかっているつもりだ。

だから、このメールにどんな思惑が含まれるのかと勘繰ってしまう。

ただ、不信に思いながらも指定時間通りに来たのは、やはり大友に会いたい気持ちが勝ったからだった。

「おお、名前、久しぶりやな」

背後から気楽な声がして、名前は少しむっとする。

気づかなかった。

どうやら、一線を退いても、実力はそのままらしい。

「久しぶり。珍しいね、陣が私を外に連れ出すなんて」

「まぁな。たまにはええやろ。
今日は好きなとこ連れてったるわ」

「……変なの」

「失礼な。禅次郎は気のきいたとこ連れてくような奴ちゃうさかい、代わりに僕が気晴らしさせたろー思ったんに」

かつん、と、大友の義足が音を立てる。

木暮の名前をあえて出したのは、名前の反応をみるためだろうか。

今日のことを木暮に言って来たのか黙って来たのか、確かめるために。

口止めこそされなかったが、どっちかで大友のスタンスは変わるにちがいない。

名前は

「禅次郎は関係ないよ」

と軽く言って、ケータイをしまった。

大友は感情の読めない笑い方をして、ほな行こか、と声をかけた。
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