東京レイヴンズ
□ブラックかミルク。
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「名前、おるか?」
ノックに続いて聞こえた声に名前はぱっと笑顔になった。
与えられたときは殺風景だった部屋も、三方の壁を天井まで覆う本棚やあちこちにある雑貨のおかげですっかり生活感に溢れている。
名前が勢いよくドアを開けると、十二神将・黒子の二つ名をもつ大友陣がへらりと立っていた。
「陣、お久しぶり。お仕事は…?」
「ん?一段落ついたで、顔見にきたってん。
まぁ、すぐに次行かなあかんけど」
大友はたいして辛そうでもないのに、大袈裟なため息をつく。
その様子に名前はふふっと笑った。
大友は、名前にとって呪術の師である。
実技や身のこなしは木暮から教わったが、術や技そのものは大友から教わったのだ。
本棚を埋め尽くす陰陽道に関する書物のほとんどは彼から譲り受けた。
また、名前に封印を施したのも大友だった。
だから名前は、彼を尊敬していたし、大好きだった。
「ああ、これ。前に言うてたやつ」
大友はソファーに腰をおろしながら、紙袋を差し出す。
中には古い呪術の関連書が数冊入っていた。
「わっ!ありがとう!」
名前の興味が、書物にうつる。
「ほんま、名前は僕のこと“本くれる人”くらいにしか思とらんやろ…」
一度紙袋をデスクに置いて、コーヒーを淹れるために奥の台所へ向かった名前の背に、大友のぼやきがぶつかった。
名前はしばらくして戻ってきて、ローテーブルにカップを二つ置く。
「…私は、ちゃんと陣のこと尊敬してるし、感謝だって…」
「あー、ストップ」
改まって開いた名前の口を、大友は人差し指でシッと塞ぐ。
「そっからさきは言うたらアカンな。
乙種呪術は恐いて、教えたはずやで」
「…ん」
「よしよし」
大友はカップを口につけながら、名前の頭をなでた。
――子ども扱いしてばかり。
と名前は不服に思うけど、黙って自分もカップを手に取った。
二つのうち、大友はブラックで名前はミルク入り。
なにも言わずにブラックを手に取った大友が、どこまでわかってるのかはわからない。
「…まぁ、名前の言いたいことは、わかってるさかい」
ふと、付け加えられた言葉も、どちらの意味か名前にはわからないままだ。