東京レイヴンズ

□偶然の遭遇の必然性は。
2ページ/3ページ


春虎の話が終わると、名前は笑顔で立ち上がった。
そして、本棚から一冊の本を抜き取って戻ってくる。

「陣が使った結界は、帝式にある百鬼夜行避けの術だと思う。
安倍晴明が賀茂忠行に見いだされたときの逸話は知っている?
そのときに忠行が用いたとも言われてて…。
まぁ、春虎くんの記憶した文言が正しいなら…だけど。
あ、これこれ」

「あ!本当だ…。
すごいですね、ちょっと話聞いただけで引っ張り出してこられるなんて」

目を輝かす春虎に、名前は苦笑する。

「んー…、実はこの術は、陣が教えてくれたんだよね…」

「ええっ!?」

「私が祓魔官になるってのは決まってたから、必要なときがあるかもしれないしーって」

「はあ……」

実際に現場で使ったことはない。
でも、覚えておいて損はないとは思っている。
大友が初めて『D』と接触したときも、タイプ・オーガの式神を退けるのに使ったというし。

ただ、春虎は名前の返事に疑問を持った。
正確には前からもっていた疑問である。

「大友先生って、独立祓魔官の苗字さんと接点ってあったんですか?」

と。

名前はまた、苦い顔をした。

自分の事情などを気安く口外するのは憚られる。
何とかいい言い逃れはないかと探して、思い浮かんだのは木暮の顔だった。

「私は小さいときから陰陽庁で育ってるから、禅次郎にはよくしてもらってて。
その同期で悪友っていったら、知り合いにもなるでしょ」

「へぇ〜」

何とか、春虎を納得させられたらしい。
名前が安堵するのも束の間、図書館の閉館アナウンスが鳴る。

書物の貸出はされないので、春虎は慌てて術を模写しはじめた。

――闇鴉の雛、か…。

名前は、後輩を見ながら笑みを口に含ませた。

このときに教えた術を、春虎が使わざるをえない状況になるとは、まだ誰も知らない頃のことだった。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ