東京レイヴンズ
□変わらない、でいてほしい。
1ページ/3ページ
闇鴉、と呼ばれることもあるほど、テレビに映る祓魔官たちは真っ黒な装いだ。
制服として揃って身に纏う防瘴戎衣がそうさせる。
名前も、仕事中は例外ではない。
既製品をアレンジしてコートのようにして羽織っている違いはあるが、基本、コートの下まで黒い服を着ていた。
そんな彼女が、今日は年相応の私服姿で駅の改札前に立っている。
鈴鹿のような派手な格好ではないにしても、彼女の日常ではあまりお目にかかれない装いだった。
勿論、それには理由がある。
名前のケータイにはその理由である一通のメールが、ずっと映し出されていた。
『次、休みいつや?よかったら会えへんか』
簡潔な文章。
らしくない内容。
文面だけでわかる、胡散臭い関西弁。
元十二神将・大友陣からのメールだ。
――そっちからは連絡しないって言ってたくせに。
名前は、彼がどういう人間か少しはわかっているつもりだ。
だから、このメールにどんな思惑が含まれるのかと勘繰ってしまう。
ただ、不信に思いながらも指定時間通りに来たのは、やはり大友に会いたい気持ちが勝ったからだった。
「おお、名前、久しぶりやな」
背後から気楽な声がして、名前は少しむっとする。
気づかなかった。
どうやら、一線を退いても、実力はそのままらしい。
「久しぶり。珍しいね、陣が私を外に連れ出すなんて」
「まぁな。たまにはええやろ。
今日は好きなとこ連れてったるわ」
「……変なの」
「失礼な。禅次郎は気のきいたとこ連れてくような奴ちゃうさかい、代わりに僕が気晴らしさせたろー思ったんに」
かつん、と、大友の義足が音を立てる。
木暮の名前をあえて出したのは、名前の反応をみるためだろうか。
今日のことを木暮に言って来たのか黙って来たのか、確かめるために。
口止めこそされなかったが、どっちかで大友のスタンスは変わるにちがいない。
名前は
「禅次郎は関係ないよ」
と軽く言って、ケータイをしまった。
大友は感情の読めない笑い方をして、ほな行こか、と声をかけた。