夢物語集
□嫌な雨も、幸せな雨
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「ほな、行ってらっしゃい」
「はい」
これから、秋斉さんに頼まれて買い出しに行く。
可愛い花瓶を探しに出るだけ。
少し 黒い雲が気になるが、降り出す前に 帰れるだろう。
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「これなら きっと、秋斉さんも気に入ってくれるだろうな。店長のオススメだもんね。」
( …雨、大丈夫かなぁ )
ふと空を見上げる。
すると、
ぽつ、……ぱらぱら…
「え…」
さーーーーーーざあざあ…
「うわ、強くなってきた…!」
言ったそばから降るなんて。
何処かに雨宿りしなければ。
走って、何処か良い場所を探す。
「あ…あそこに小屋がある…!」
灯りも点いておらず、暗い。
きっと誰もいないのだろう。
慌てて そこに駆け込む。
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「はぁ はぁ、…」
まさか、出発早々に雨に降られるなんて。
今日は、何て ついてないんだろう。
「雨が止むまでに 乾くかなぁ…」
すっかり濡れてしまった着物を脱ぎ、水分をしぼりながら、外の様子を伺う。
「……あれ?」
さーーーさーーー
激しく降る雨で よく見えないが、確かにこっちに向かってくる人影がある。
「誰か…こっちに来る…?」
ぱしゃぱしゃっ、
どうしよう。
誰か来る!何か着なきゃ…!
今、私は 現代でいう
下着同然の恰好だ。
「はぁはぁ、…雨宿りさせてもらいますえ、どなたか いらはりますか」
( あれ…この声… )
「…? どなたか 居てはる…?」
「わ、私です……舞です!」
何て偶然だろうか。
ずっと会いたいと願っていた桝屋さんに会えるなんて。
嬉しさが胸一杯に溢れる。
「あぁ舞はんどすか…って、なんちゅう恰好してはるんどすか…」
「?……あ!忘れてた…!着物!その…濡れてしまって!乾かす間…ちょっと…あの…」
私が 赤くなってあたふたしていると、
桝屋さんは溜息をついて、頭にぽんと手を置いた。
「慌てんでもいいですよて…でもわて以外の男が来たら……あんさんは可愛いから襲われてまう…、わての為にも今度から気を付けなはれ」
「桝屋さんの、ため…?」
「せや。あんさんはわての可愛い子猫やさかい、野蛮な輩に奪われとうない」
何も言えず、俯いてしまった。
恥ずかし過ぎて、嬉し過ぎて、心が落ち着かないよ…
「寒いやろ、こっちにおいで」
穏やかな笑みを浮かべ、桝屋さんが 手招きをしている。
私は素直に 桝屋さんに近寄った。
「ひゃ、」
桝屋さんは 私を優しく抱き寄せ、包み込むようにしてくれた。
「こうすれば…暖かいでっしゃろ?」
「は、はい…」
桝屋さんは、赤くなって俯きがちの私を見て、愛おしむように微笑んだ。
「ほんに かいらしい娘や」
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この雨が、
もっともっと
長く 降り続けてくれたらな…