二次創作

□神獣のとあるバカな計画
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「ふっふっふ、ついに完成したぞ―!」

花街にも行かずお店に来てくれた可愛い女の子を口説くことなくひたすらある薬を作ること三日、なんとか思い通りのものが完成した…はずだ。

あ、なんの薬かっていうとそれはおいおい説明するとしよう。
知識の神である僕が作ったものだからちゃんと効果はあると思うが、なにしろ僕も初めて調合したものだし、服用した動物または人間、鬼を観察したこともないのでいささか不安が残るがなんとかなるよね!

「白澤様がそんなに夢中になって薬を作るなんて珍しいっすね、そんなに凄いものなんですか?」

僕が鼻歌を歌いながら赤紫色をした液体を鍋でぐつぐつ煮込んでかき混ぜていれば仕事が一段落着いたのか物珍しそうに僕と鍋の中を交互に見てため息をついた。

「普段からこんな風に働いてくれると助かるんですけど」
「僕は興味を惹かれるものにしか本気になれないから仕方ないの!それに人間だって好きなことには意欲的だけど大嫌いなものとかは遠ざける…ってよくあるでしょ?」
「あんたは仕事嫌いなのかよ!?俺はそんなことないですけど」

桃タロー君は腕を組み首を傾げて考え込んでいたが思い当たるフシがないのか僕の発言に同意しなかった。桃タロー君は過去はやんちゃしたこともあったらしいけど根は真面目の中の真面目、苦手でも嫌いなことでも自ら進んで取り組んでいたに違いない。僕とは全く正反対だ。だからこそ好きなんだけどね!とは口に出さないでおく。

「例えばある学生は好きで得意な勉強科目は真面目に授業を受けてテストの勉強をした。その結果良い点数を取ることができた。しかし、苦手で嫌いな科目は授業は寝てばっかりで勉強に手を付けなかった。もちろん結果は赤点もしくは赤点ギリギリだったんだ」
「うわー…なんか具体的な例だな!つーか、その学生大丈夫だったんですか?確かあんまりヤバすぎると留年になるんじゃ」
「あ、よく知ってるね!実はその学生、あんまりにもその日が手科目?の成績が酷いんで保護者呼ばれて担任に泣かれて終いには次赤点とったら退学だって脅されたんだって!」
「留年以上にやばかった!で、やっぱり苦手なものはやりたくないって次も勉強しなかったんですか」
「ううん、退学って脅されたら死ぬ気で寝る間も惜しんで勉強したみたい。退学は免れたみたいだよー。人間っていうのは嫌なものは追い込まれてこそ頑張れるんだよ!あ、僕も同じだからつまり人間と神様は似たもの同士ってことだね!」
「いやいやっ、神様なら人間の手本になるようなことしてくださいよ!」

僕が満面の笑みで両手を叩けばすかさず桃タロー君の鋭いツッコミが入ってくる。
「なるべく精進いたします☆」って答えたら今の世の政治家並みに信用できないと胡散臭そうな目で見られて鼻で笑われて100の精神ダメージを受けたけど気を取り直して薬の説明をしようと鍋の火を止めて大げさに一つ咳払いをした。

「この薬、初めて作ったんだけどそうだなぁ、モノマネが上手くなる薬…略してモノうま!だよっ」
「………はぁぁ??」
「実はこの間遊んだ子が何かの事情でモノマネ大会に出場することになったらしくて助けて欲しいって言われてねー。なんか優勝しないと仕事クビにされるって泣きつかれちゃって!そんな事情じゃぁ助けなきゃ男が廃るじゃない?だから僕はこの三日間頑張ってこの薬を作った訳です」
「どうしよう、何からつっこめばいいのか分からない!…というか本当にモノマネがうまくなる薬なんて存在するんですかっ!?」

僕がざっくり薬の説明をすれば桃タロー君はたっぷり間を置いて眉根を寄せて首を傾げたのでもっと掘り下げて過程を説明すればにわか信じられないと疑わしそうに鍋に視線を向けた。

「僕は神様だよ?これくらい朝飯前だよ!って言いたいところだけどまだ効能がはっきりわからないんだよね、だから桃タロー君これちょっと飲んでみて!」
「なんで俺が飲まなきゃいけないんですか、お断りします」

煮え立った赤紫の液体を湯呑に注いで桃タロー君の前に差し出したけど心底嫌そうな顔をして小さく首を横に振った。あっさり断られて頬を膨らませて恨めしそうにじぃっと見つめてみても気にする様子もなく仙桃を取りに行こうとしたのか籠を持って出て行こうとしたのを慌てて肩を掴んで引き止めた。

「だって僕が飲んだらこの薬が成功したのか分からないし兎達がそもそも喋れないから意味ないし!女の子の命?がかかってるんだし協力してよこの通り!」
「…はぁ〜。わかりました、分かりましたから頭上げて下さい!飲みますから…効果ってどのくらい持続するんですか」
「謝謝、桃タロー君!ちょっと適当なモノマネやってもらったらすぐ効果切れると思うから安心していいよっ」

深々と僕が頭を下げれば心根の優しい桃タロー君は慌てて頭を上げて下さい!と再び僕の方を向き直って折れてくれたのだろう、深いため息をついて薬を飲んでくれることを了承してくれた。効果がすぐ切れると聞けば安心したのか意を決したかのように湯呑の中の液体を飲み干した。
僕はその様子を彼には分からない程度に唇の端を上げその様子を見守った。


実は僕は桃タロー君に嘘をついていた。
モノマネが上手くなるなんていう薬なんて作ってないし僕が遊んだ女の子のために作った薬でもない。僕が本当に作った薬は『薬を飲んだ直後に最初に見た人物、もしくはキャラクターの性格を読み取って完璧になりきる薬』なのだ。そんな都合が良すぎる薬あるかよと言われればそんなものこの世界はなんでもありなんだよ!の一言で一蹴出来るんだから便利だよね。
で、なんでそんな薬を桃タロー君に飲ませたのかというと、桃タロー君に甘えて欲しかったからだ。とはいえそんなことを直球に言葉で伝えてもきっとゴミを見るような目で見られて終わりがオチだ。そこでこの薬を利用することに決めたのだ。

今僕の手には『甘えっ子桃ちゃんと僕のラブラブ生活日誌』というギャルゲーのパッケージが握られている。この桃ちゃんは主人公にメロメロで甘えん坊設定。
つまりこのキャラクターを見ればたちまち僕に甘えてくれてうまくいけばキャッキャウフフな展開になるかもしれないという期待が胸を躍らせた。
桃タロー君が飲み干すのを見計らってパッケージを顔の前に持っていく。

「白澤様、飲みましたけど次どう……」

顔を上げおそらく次の支持を仰ごうと僕を見上げたのだろうその言葉は最後まで紡がれることはなく沈黙が店を支配した。
まさか失敗したのかとパッケージを下ろして桃タロー君を見遣れば俯いて心なしか体が震えている。僕は失敗したのだと直感して念のために作っておいた解毒剤を取りに調合台に
戻ろうと踵を返した瞬間、白衣の袖を強い力で引っ張られて振り返ればそこには瞳を潤ませて頬を赤く染め上目遣いで…そう、上目遣いで僕を見上げている桃タロー君の姿があった。

「タ、桃タロー君っどこか苦しいところがあるのっ?」
「…ちゃ、嫌です」
「えっ?ごめん、聞き取れなかったからもう一度言ってくれる?」
「どこかに行っちゃ嫌ですっ傍に居てくれないと桃、死んじゃいます!」
「…ええええっ、もしかしてこれ成功したパターン!?」
「桃は白澤様が好きなんですっ。白澤様も桃のこと好き、ですよね?」

ポロポロ涙を流しながらしがみついてくる桃タロー君に一瞬白昼夢でも見たのかと錯覚したけどしがみついてくるこのぬくもりは紛れもなく本物で。
あまりの嬉しさにテンションが上がって鼻血が出そうになるのをなんとか押えて右手の拳でガッツポーズして感慨にふけっていれば返事をしない僕にシビラを切らしたのか不安そうに眉を下げ目を伏せてしまった。僕は慌てて今こそ僕の気持ちをぶちまけようと桃タロー君の両手を握って微笑んだ。

「もちろん君が好きだよ!二日酔いの世話もしてくれて家事も身の回りのこともしてくれて…いつの間にか桃タロー君のことが愛しくて何にも代え難い存在になっていたんだ。
だから桃タロー君と〈ピーーー〉なこととか〈バーーン〉なことがしたい!」
「は、白澤様…っ最後の方変な音でよく聞き取れなかったけど嬉しいです!白澤様のためならなんだって出来ます!」
「謝謝、桃ちゃん。愛してるっ」

よほど感激したのかさらに頬を紅潮させ嬉しそうに大きく頷く姿に愛しさがこみ上げて口づけをしようと少し屈んで顔を近づければ察してくれたのか桃タロー君も目を瞑った。
もの様子があまりにも可愛くてついでに袴の合わせにも手をかけ、あと少しで唇と唇が触れ合うというところでこの甘い桃色の空間を切り裂く騒音が耳をつんざいた。



――ドンガラガッシャーン!!

「呼ばれて飛び出てじゃんじゃじゃーん!!どーも元気ですかぁぁっ」
「ぎゃあああっ鬼が出やがったぁぁあ!!お前が来たせいで元気じゃなくなったわバカヤロー!!」





こうして僕と桃タロー君の甘くて優しくてねっとりラブラブする計画は突如現れた鬼神によって潰されてしまったのだった。
でも僕は諦めないで桃タロー君ときゃっきゃうふふするために色々と頑張ろうと思いました、。あれっ作文?

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