二次創作

□あさきゆめみし
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※少し『源氏物語』の物語をなぞってます。自分なりの解釈なので間違っているところもあると思いますがご了承ください。









しとしと雨が降る中、俺は店の中を動き回っていた。
別に薬の注文が立て込んだわけでもなく、店にお客さんが行列を作っているわけでもない。というか何故かこの店の主、白澤様は「今日は一日中雨だからもう店じまいしちゃお♪」の一言でさっさと店を閉めてしまった。まったくもって自分勝手な言い分だがそれももう今更という感じなのででは、掃除でもしようと気持ちを切り替えた。
普段から掃除はしているが最近忙しかったため目の行き届かない場所はおろそかになっていた。ちょうど良い、時間が空いた今片付けてしまおうとハタキを片手に埃を落としていく。何気なくちらりと横目で白澤様を見ればなにやら真剣な表情で何かを読んでいるようだった。またいつもの『これであの女の子はオチる!必勝テクベスト10』とか『CanCan』とかそういう類の雑誌を読んでいるのかとおもったがどうやら違うらしい。白澤様が読んでいるのは絵巻物のようだ。
珍しいなと思っていたのが伝わったのか白澤様は俺の方を振り返りにっこり笑いながら気になる?と首を傾げた。

「え、ええ。白澤様が絵巻物読むなんて珍しいっすね。何読んでるんですか?」
「まぁ確かにね〜僕も久しぶりに読んだよ。あ、これは『源氏物語』っていうんだけど桃タロー君知ってる?」
「あー、はい。読んだことはないですけど少しなら内容知ってますよ」

俺は白澤様の横の椅子に腰を下ろして源氏物語…の記憶を引っ張り出す。
たしか、ばーちゃんも何冊か持ってたし村の女子衆の間でも回し読みをしていたから少し聞きかじった程度だが知っていた。俺は頷いて決して綺麗とは言えないが歴史の長さを感じる少し色あせた巻物絵に興味を惹かれて絵巻物を覗いてみた。
中心の位置に描かれている男はおそらく主人公であろう。名前は光源氏だったか。
帝の御子にしてかなりの美丈夫、文武両道でしかも女性遍歴が凄いんだったけ?
あれ、これに当てはまる人物を俺は知っている。横目でとなりを見れば白澤様は俺の考えが読めたのか満面の笑みを浮かべた。

「ねぇねぇ、この主人公の光源氏って僕に似てない?」
「やっぱり!言うと思ったよ…」
「あッやっぱり桃タロー君もそう思った?」

へらへら笑いながら実はこの主人公、僕がモデルだったりして!なんてほざきやがる師になんとなく殺意が湧いたが押し殺した。

「まさかとは思いますけど現実の女性だけでは飽き足らず物語の女性とも恋愛を楽しむためにこの物語の主人公になりきって読んでるんですか?」

この神様守備範囲広いとかの問題じゃなくてほとんど病気じゃないかと思わず距離をとってしまう。ちょっと紫式部様に謝った方がいいのではないだろうか。

「違うよ!そんなこと…いや、あながち間違いじゃないかも?」
「うわぁぁ、マジかよ!…転職しようかな」
「やめてよッ桃タロー君はここから出て行っちゃダメ!!」

転職、という言葉にさっきまでの間抜けな顔が一瞬にして真顔になって詰め寄られてさらに引いてしまったがこのままでは話が進まないとコホンと一つ咳払いして絵巻物を指差した。

「すみません冗談です。で、なんで『源氏物語』なんて読んでいたんですか?」
「えっとねー、僕が光源氏で桃タロー君を若紫…後の紫の上に置き換えて読んでました!」
「はぁ?わ、若紫?」

若紫、紫の上。このような人物いただろうかと思い出してみるがどうもあの物語は登場人物が多すぎるせいでなかなか思い出せそうで思い出せない。
そんな俺の様子を見かねてかえへへ、と照れ笑いを浮かべた白澤様は別の巻物を開いて俺に見せてくれた。

「まず源氏と若紫の出会いは第5帖の『若紫』。源氏が18歳、若紫は10歳の時に二人は初めて出会うんだ。そこで源氏は彼女に一目惚れしちゃうんだよ!」
「え、10歳の少女に一目惚れってロリコンかよ…つーか俺白澤様に一目惚れされちゃうんですか!?」
「ロリコンじゃないよっ、たまたま運命の人が少し年下だったというだけだよ!そう、ぼくは桃タロー君に一目惚れしてしまったんだ」

これは謂わば仮想シュミレーションのようなものに過ぎないのにうっとりと頬を赤らめている白澤様の姿に胸が高鳴る。ほんのりと淡い恋心を抱いている相手にたとえ空想のなかだとしてもそんなことを言ってもらえたのが嬉しくてそれで、一目惚れしてどうしたんですかと話を促した。

「若紫の後見人の祖母が亡くなってすぐに源氏は若紫を自分の邸に連れて帰って理想の女性に育てるんだよ!はぁ〜…、小さい桃タロー君を閉じ込めて僕好みに調教できたならどんなに幸せだろうっ」

ほぅ…と頬に手を当て目を細めてうっそりと息を吐く自分の思い人に俺は口元を引きつらせることしか出来ず何も言えなかった。というか言いたくなかった。
そんな俺のことは構わずに白澤様はさらに続けた。

「それでね、第9帖の『葵』の巻で源氏と若紫は身も心も結ばれるんだよ。ふふ、素晴らしいよね幼い頃から自分好みの理想の女性に育てて結ばれるなんて、本当に素敵だよね?」
「む、結ばれるんすか…」
「あははっ、桃タロー君顔真っ赤だよ。もしかして照れちゃったの?可愛いなぁ!ねぇ、今からでもさぁ僕が桃タロー君の事を一から僕の色に染めることが出来たなら僕達も結ばれるかなぁ」

その源氏と若紫が結ばれたように、俺と白澤様も同じようにそんな関係になれたならどんなに嬉しいだろう。これはただの冗談なのだと分かっていても顔はなんだか火照っている気がするし心臓もさっきからドキドキとうるさく鳴り響いている。
もしかしたらこの音が白澤様に聞こえてしまうかもしれないと距離を取ろうと立ち上がった瞬間、腕を引かれ突然のことに驚いて勢い良く白澤様の胸に飛び込んだかたちになってしまった。

「なっ、ちょ!どうしたんですかいきなりっ」
「ねぇ逃げないで。あのね、若紫もとい紫の上と源氏はお互いを最愛の人と呼び千年の愛を誓いあったんだって。…僕も桃タロー君を愛したいしできることなら千年、ううんっ永遠に君と一緒にいたいんだ。桃タロー君は僕が嫌い?」

抱きしめられただけで内蔵とかもろもろ口から出てきそうなのに俺の耳元でこの人は今、なんといっただろうか。愛してる?永遠に俺といたい?訳がわからないよ状態になって思考回路が固まってしまって言葉が出ない。白澤様は俺が無言なのを肯定と受け取ったのか大粒の涙をほろほろと流し子供の様に俺の腰にしがみついて首を横に振った。

「嫌だよ、桃タロー君。僕を嫌いにならないで!君が僕から離れてしまったら何をしでかすかわからないんだ。」
「…冗談じゃないんですよね?」

やっと声が出せたとおもったらその声色は情けないほど震えていて掠れていて自分でも聞き取れないくらいの小さな声だった。それでも白澤様はしっかり聞こえたらしく勢いよく顔を上げて真っ赤な目で俺の目をまっすぐ見据えて頷いた。

「もちろんだよ、僕はもう桃タロー君しか愛せないんだ!」
「お、俺も貴方のことが好きです。大好きです…っお慕い申し上げています」

言葉を重ねるたびに視界がだんだんぼやけて白澤様の表情が見ることが出来ない。
嬉しがってくれているだろうか、それとも驚いた表情をしているだろうか。
目に浮かんだ涙を拭えばそこには目も鼻も頬も赤く染めた白澤様の笑顔が目の前にあった。

「我愛你、桃タロー君」
「俺も、世界で一番貴方を愛していますよ。白澤様」




初めて交わした口付けはしょっぱくてそれでいてほんのり甘い味がした。








「そういえば光源氏って晩年すごくわっかーい嫁さんもらいますよね?もしかして白澤様も…」
「うわぁぁぁあやっぱり似てない!こんな男と僕は全然似てない似てない!!」






**************


久しぶりに源氏物語の小説と漫画読んだら書いてみたくなりました。何が書きたかったかというと遠まわしのプロポーズ話のつもりがどんどんかわってしまいました…まぁいいか。
白桃だったら光源氏=白澤、紫の上=桃が王道だと思います。白桃鬼だったら匂宮=白澤、薫君=鬼灯、浮舟=桃がベスト!二人の男が薄幸のヒロインを取り合うとか美味しすぎる。いつかドロドロの三角関係とか書いてみたい…。

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