二次創作

□表裏一体型
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「留三郎と付き合うことになった」

この私の目の前にいる男はいったい誰なのだろう。頬を赤らめて幸せを噛み締めているように笑う同室者を部屋で委員会の書類の書き物をしていた手を止め、ぼんやり見つめながらただ、そんなことを考えていた。




六年い組、地獄の会計委員長にして学園一ギンギンに忍者していると言われている潮江文次郎だが学園に入ったばかりの当初はい組の落ちこぼれといつも馬鹿にされるほど成績が悪く、実技の試験すら小さな失敗を繰り返すはでそれは散々な有様であった。

それを見兼ねた私は文次郎に勉強を教えてやり手裏剣の基本的な撃ち方の特訓まで付きやってやった。
その目的は皆に馬鹿にされて可哀想だったとか哀れなどと相手を思いやったわけではなく、成績優秀で先輩や先生からも一目置かれている己が同室の文次郎の馬鹿さのせいで格下と思われたら我慢がならないというなんとも自分勝手な理由からだったが私が手とり足取り懇切丁寧に教えてやったおかげか半年後には一学年の中でも真ん中の成績に上がり二年にあがったころにはい組の名にふさわしく成績を出せるようになったのだ。

それからというものの文次郎は私に懐いてきて何をするにも一緒に行動しては絆を深めてお互いがお互いを必要とする存在となっていった。六年に上がってからもそれは変わらず今で
親友という括りではなく本来異性に向けるべき感情…恋情を文次郎に向けてしまったことに気付いた時は頭を打ち付けたい衝動に何度駆られたことか。だが、恋というものは不思議なものであのむさ苦しく鍛錬バカの男ですら可愛く見えてしまうのだから。

しかし相手は三禁を重んじる男だ。きっとこの想いを告げたところで全く相手にされないということは私自身がよく知っていたからこのまま恋心を忍んで親友、としてこのまま残り少ない学園生活を送ろうと決意を固めた矢先、突然の告白に思わず固まってしまった。
そんな様子に怪訝そうに私の顔を覗き込んで次の瞬間には眉を下げ悲しそうに自嘲して申し訳なさそうに俯いてしまった。

「いきなりこんなこと言われても驚くよな。しかも男同士、だなんて気持ち悪いだろうしな…でもっ俺はお前にだけは言いたかったんだ。仙蔵にだけは隠し事したくなっかったんだ」
「文次郎…」

膝の上で拳を握り締めうっすら涙を浮かべながら顔を上げてまっすぐ己を見据えるその姿に心の中ではドス黒い感情が渦巻いていたがなんとか顔に出さないように笑顔を作りおめでとう、良かったなと言えば再び頬を蒸気させて口癖のギンギーンと叫びながら部屋を出て行ってしまった。おそらく留三郎に報告でもしに言ったのであろう。
そう考えるだけで怒りが込み上げ握っていた筆がバキリと音をたて二つに折れてしまった。

(私が、私がお前を優秀ない組の生徒の一員にしてやったのに。この私が落ちこぼれだったお前に手を伸ばしてやったというのにこの仕打ち、か)

先程まで無理やり作っていた笑を無表情に変え、折れた筆を放り投げる。
もうあの男の一番の存在は私ではなく恋仲の留三郎になってしまうのだろうという怒りや恐怖でどうにかなってしまいそうで頭を掻き毟って机に項垂れ目を瞑った。

(私はこんなにもお前を好いているのに何故他の男と恋仲になんかになるのだ。何故こんなにも長く傍にいる私の気持ちに気付いてくれないのだ!あぁ、私は貴様が憎い、恨めしい…っ)

人の気持ちも知らず他の男と恋仲になったと嬉しそうに笑った男は己が好いていた人物だったはずなのに殺してそんな事実をなかったことにしてしまいたいと望んでしまう程、己の心は歪だと感じたがそんなもの気にするのも馬鹿らしいと鼻で笑い数刻前に手入れをした苦無を手に取ってきらりと怪しく輝く鋒(きりさき)に口の端を上げて目を細め笑った。





おわり

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