二次創作

□どう足掻いてもバッドエンド
1ページ/5ページ


※白澤が微妙に病んでます
※ピクシブにも載せたものですが最後におまけ追加しました



「俺、白澤様のことが好きです。恋愛的な意味でお慕い申し上げております」






神獣であり漢方の権威である白澤様の弟子になってからもう何年、いや何十年たっただろうか。弟子になったばかりの時は女にだらしないところや売上の七割を交遊費に使ってしまい給料は雀の涙だったりと不満ばかりで本気で転職を考えた回数は正直少なくない。
しかし、あまりのダメさ加減に俺が世話をしないと!という謎の使命感に駆られて二日酔いの世話に始まり女性関係で修羅場になったときは中立の立場に立ってその場を収めたりとなんでもやった。弟子にこんな迷惑ばかりかける師匠はおそらく白澤様だけだと思う。
それでも普段は『まるでダメな男』略してマダオのくせして薬を処方すればどんな動物や鬼、人をあっという間に治してしまうものだから感心と尊敬もしていた…一応。

そしていつしか尊敬から憧れに変わり、最終的には俺は白澤様に恋をしていた。
きっかけとかは特になくていつの間にか好きになってしまったとしか言い様がないのだが、
自身の気持ちを自覚した当初は一人で大泣きしたのを覚えている。
恋が実ることはないのは重々承知しているがもし、万が一俺が白澤様を慕っていることがバレたらきっと蔑んだ目で見られるだろう。最悪ここから追い出されるかもしれない思うと恐怖に体が震えて、なんとしてもこの想いを悟られない内に消し去ろうと決心したのがもう遠い昔のことのように感じた。

恋をして始めの頃はただ、あの人の傍にいられるだけで満足だった。
‘弟子’としての枠だが少なくとも白澤様と一夜を過ごした女性よりは近い存在だと思っていたからだ。それなのにだんだんに欲が出てきてしまった。あの人が花街へ繰り出す度に、店で女性を口説く度、自室に女性を連れ込む度に嫉妬で気がおかしくなって喉を掻き毟りたくなった。鬼を退治した英雄と持て囃されていた俺がこんな感情を抱いてしまうとはなんとも恐ろしく可笑しくて、きっと鬼灯さんに知られたら哀れみの目で見られそうだと自嘲した。

(いっそうのこと気持ちを全部ぶちまけて破門にしてもらおうかな)

これからもずっとあの人の傍で感情を押し殺して接することができないほど憔悴してしまった俺は暖かな春の日差しが降り注ぐある日、ストックの薬剤がなくなったため白澤様と二人きりで薬を生成していた俺は「俺、いちご大福が好きなんです」とまるで好きな食べ物を挙げるかのようにすり鉢に入れた薬草をすりつぶしながら一世一代の告白を紡いだ。自分でもあっさりした告白だと感じたけれどこれが精一杯で、向かいに座っている白澤様を見ることは出来ず視線を落として相手の言葉を待った。

(きっと軽蔑されて、出て行けって言われるんだろうなぁ…それとも面白い冗談だねって笑い飛ばすかのどっちかだろうか)

どんな結果になろうとも絶対に白澤様を恨んだりはしない。だからさっさと俺の片思いに終止符を打って欲しいと拳に力を入れて息を止めるが白澤様は何も言わず沈黙が続いた。
短いような長いような沈黙状態にシビラを切らして恐る恐る顔を上げれば額の目も合わせて白澤様はポロポロと涙を流しながら嗚咽が漏れないように唇を噛み締めているがひっくひっくと体が震えていた。

泣くほど気持が悪いと思ったのだろう。悲しさと苦しさに今すぐ大泣きしてこの場を離れたい衝動に駆られたがそれではますますこの人を困らせてしまうとなんとか涙を引っ込めて冗談ですよ、と笑おうとしたところで誰かに抱きしめられて言葉を発することは出来なかった。
店には俺と白澤様しかいないわけだから誰か、は白澤様だけに限られる。
突然の出来事に混乱しつつもこんなにも近距離で白澤様を感じて胸が張り裂けそうなくらい心臓の音が高鳴った。
白澤様の白衣に埋めていた顔を見上げれば今度は興奮しているかのように呼吸を乱し、頬を赤らめて俺を見つめていた。その瞳はまるで俺に恋をしているものかのようで勘違いしてしまいそうになる。
慌てて押しのけようと力を入れて白澤様を退かそうとするがビクともせずそれどころかますます強くだきしめて耳元で囁いた。

「僕も君が大好きだよ…我喜欢你!ううん、我爱你!」
「う、嘘だ。白澤様が俺なんかを好きなわけ…っ!」
「本当だよ、信じて?えへへ、まるで夢みたいだなぁ!だって僕の方から告白しようと思ってたのに桃タローくんの方から言ってくれるなんて幸せ過ぎてどうしようっ」
「それはこっちのセリフですよ!…これ夢落ちとかだったら俺立ち直れません」
「あははっ、だいじょーぶ。これは夢じゃなくてちゃんと現実だよ!」

白澤様は俺を愛おしそうに顔のあちこちにキスを啄み心底嬉しそうにはにかんだ。
そのはにかんだ笑顔に胸が熱くなってうっすら涙を浮かべて抱きしめ返す。

「ずっとずっと、傍に居てね?桃タロー君」
「…はい、白澤様が許してくれる限りお傍におります」

―こうして俺は何十年かの片思いの末、晴れて白澤様と付き合えることになった。

その日は幸せ過ぎてなかなか寝付けずうとうとと船を漕ぐことが出来たのは既に日がもうすぐ昇ろうとしていた頃だった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ