二次創作

□ようこそ、非現実的な世界へ
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※桃太郎と一寸が転生しています






俺の名前は御伽 桃太郎(おとぎ ももたろう)っていいます。年はもうすぐ20歳になるところで、薬剤師を目指すため大学に通うどこにでもいる平凡な大学生だ。
容姿はという、と友人もとい悪友曰く「室町時代ならモテたであろう古風なイケメン」とのことだった。それ暗に今のこの世の中じゃモテないだろうと言ってるようなものである。いや、確かに生まれて一度も彼女なんてもの出来たことないけど!

あ〜…、話がそれた。まぁ、優しく時に厳しい両親と祖父母に育てられ友人にも恵まれた俺は何不自由なく暮らしていたのだが一つだけ他の人とは違う事がある。
そのことについてちょっと長くなるけど話したいと思う。



―…遡れば物心がついた時から“それ”はいつも俺の傍にいた。
“それ”をなんと言って表現すればいいのか分からないが“人のような形をした影”のようなものだと感じたのだと思う。当然小さい頃の俺には怖くて何度も走って逃げたがその“影”はどこまでも追いかけてくるので無意味だった。次に母親や祖母に助けたが二人どころか他の人にも見えていないらしく俺の言葉に不思議そうに首を傾げただけだった。
なので常にその“影”に怯えて生活をしていた記憶がある。


その“影”は俺が小学生になっても相変わらず俺の傍を離れなかった。
年を重ね少しばかり知恵を付けた俺は“影”をつぶさに観察してみたのだが。
見た目は真っ黒、人型だが顔はなく不気味であったが俺に危害を加えることもなく逆に何故か見守られている風に感じて胸が暖かくなったような気がした。

そして9歳のある日、俺は補助輪なしで自転車に乗れるようにするために一人で公園に来ていた。が、ペダルを漕いだ瞬間にバランスを崩して顔面から地面へとダイブしてしまった。顔はもちろん、手や足にも擦り傷をつくりあまりの痛さに涙が溢れて泣きそうになったとき“影”頬や手足を優しく撫でまるで「イタイのイタイの飛んでいけー!」でもやっているような動作に痛みを忘れ笑ってしまった。
…この時から少しずつ“影”に親しみを持ち始めたんだ。




そして月日は流れ、高校受験を控えた秋に祖父母が示し合わせたかのようにほぼ同時に病に倒れ、死んでしまった。大好きだった二人の死にショックで受験勉強も手につかずただ部屋の隅っこで蹲り、二人の死を嘆いていた。“影”はそんな俺を見かねたのか俺の横に座りひたすら俺の頭を撫でて手を握り一日中慰めてくれた。手の暖かさは感じなかったが不思議と心配してくれてるのだろうと感じて嬉しさから励ましてくれてありがとうと小さく呟けば“影”はまるで笑っているような錯覚を見た気がした。
もしかしたらこの“影”は守護霊なのだろうか?と疑問に思った気がする。



季節は移り変わり、春。俺は“影”と祖父母の加護のおかげなのか無事に希望校に入ることが出来て嬉しさにあまり大泣きする始末だった。
そして高校でさっきも紹介した悪友とも出会うわけである。悪友との出会いは入学式の日偶然座る座席が隣同士でたまたま会話が盛り上がりそこで意気投合して仲良くなった。
彼の名前は一寸といって俺にとって一番気が許せる友人になっていた。

「で、そこにその影?とやらは今ここにいるのかよ?」

「あぁ、トイレとか風呂以外はずっと一緒にいるな。」

高校生活も残り1年を切ったある晴れた日に俺と一寸は屋上で昼飯を食べていた。
普段は“影”の話など絶対にしないのだが(守護霊が見えるなんて言ってみろ、ただの不思議ちゃんか電波、廚二病っぽいとか言われるのがオチだ)一寸なら話してもいいかと昼飯の話のネタとして話して見れな半信半疑な表情を浮かべるも苦虫を噛んだような顔で俺の横を指差した。一寸の問いに卵焼きを頬張りながら肯けばますます眉間にしわを寄せて虚空を睨んだ。

「なぁ、四六四十一緒なんて嫌じゃないのか?」

「別に。昔は怖がってた気もするけど今では俺の大切な家族みたいなものだしそんなこと思わないなぁ」

「えぇ〜…でも彼女ができたらヤリづらくないか?あ、桃太郎には一生彼女なんて出来ないから困らないか!」

一寸は腹を抱えてゲラゲラ笑い、あまりの言い草に俺は反論して「いつか運命の相手が現れる!」と宣言すればさらに声をあげて笑うものだからもう無視しようときんぴらごぼうを口の中に突っ込んだ。

「というかやりずらいって、何がやりずらいんだよ?」

「はぁ?んなもん気まってるだろ。セック…おぎゃぁぁぁっ!!?」

「うわぁぁっえ、なんで空からたらいが落ちてくるんだよ!しっしっかりしろ一寸死ぬなぁぁ!」

なぜかいきなり一寸の頭上からたらいが(しかもかなりでかい)落ちてきた。おそらくその衝撃で一寸は痛みでショックを受け、泡を吹いて卒倒してしまった。
俺はというとあまりの不可解さに頭の上にクエスチョンマークを浮かべながら必死に友人を揺さぶり叫ぶことしか出来なかった。



そんなこんなで高校を卒業して、一寸とは別々の進路を歩むことになった今でも時々近状を報告し合い明日、俺の誕生日も二人で落ち会う約束をしていた。
大の大人がいい年して男と、しかも誕生日に会う約束をするなんて一部の女性が喜びそうな展開だが俺は至ってノーマルだ。一寸もきっとそうだろう…多分。

俺の誕生日はいつもだいたい春休みとかぶるから遊ぶにはちょうどよい日だ。
一寸とは昼に待ち合わせしているから午前中で溜まってる洗濯干さないとなぁとひとりごちてアラームをセットする。大学に入学したときからこれを機にと一人暮らしを始めた。少しでも早く自立というものをしたかったし、大学に近いアパートをたまたま見つける事が出来たからである。まぁ正確に言えば一人プラス守護霊?暮らしであるが。
アラームもセットしたし明日に備えて早めに寝ようと布団に潜り込んだ。
また明日も平凡で幸せな一日を過ごせるのだろうと目を閉じすぐに眠りの世界に入ってしまった。その日から俺の平凡な人生が一変するなんて知らずに。



『キャラメル天国〜あまくて優しいねっとりかぁん、ぜぇんぶまぁぜて〜お砂糖たっぷりジャムにしよぉ〜♪♪』

(あ〜もう朝ぁ、まだ眠たいけどそうも言ってられねえよな…)

目覚ましの着信音で目を覚ました桃太郎はとりあえず音を止めようと携帯を取ろうと手を伸ばそうとしたが全く動かない。手だけではなく足も、首も全然動かせなかった。
パニックになった桃太郎はうっすら額に汗をかき、これが噂に聞く金縛りなのかとどこか冷静な自分もいたことにさらに驚いた。
が、やはり体全体が動かないとなれば恐怖でしかなく祖父母に助けを求めるしかない!と
必死に心の中で二人に助けを求めた。

(ばーちゃん、じーちゃん!助けてくれっ俺はまだこんなところで死ねないんだ!)

薬剤師になるという夢を叶えるまでは死ねないと思い切り目を開ければ思ったよりも簡単に開いたのでとりあえず“影”に助けてもらえないか部屋を見渡そうとした瞬間見知らぬ男の顔が視界いっぱいに広がり固まってしまった。

「早上好、桃タロー君!」

「だっ、誰だおまえぇぇぇぇっ!?」

飛び起きてやっと声を出すことが出来たのはそれから数秒後だった。


「人ん家に不法侵入した理由はなんですか」

「えー?不法侵入だなんて今更あんまりだよ。僕はずっと桃タロー君の傍にいたのに」

「…は?ずっとぉ?」

桃太郎は飛び起き咄嗟に男の顔を殴りとりあえず今は正座をさせ事の真相を尋ねるべく仁王立ちで男を上から見下ろした。
しかし男は殴られた頬を摩りながら意味不明なことばかり言うのでいまいち…というか全く意味が分からない。そもそも自身にはこんな知り合いなどいないはずだ。
もう一度男を観察してみる。年は20代前半から半ばくらいだろうか、切れ長の目に筋の通った鼻、服装は三角巾みたいなものをかぶり、なんだか給食の白衣みたいだ。
服装のせいでイケメンが台無しだと感じた。

「うん、やっぱりあんたみたいなおかしな人知り合いはいません!というか俺の名前はたおたろーじゃなくても・も!たろうです!」

きっぱりと言い切ると男は不服そうに唇を尖らせ恨めしそうな目つきで桃太郎を見つめ形の良い口を開いた。

「むかぁし小さい時、自転車から転んで痛みを和らげてあげたのも君のお爺さまとお婆さまをなくしたとき慰めてあげたのは僕だよ?酷いなぁ、忘れちゃったの?」

「な、なんであんたがそんなこと知ってるんですか!?」

「だって僕は君が影だと思っていた存在だから。ほら、君がずっとみていた人型はもういないだろう?」

「…本当だ。居なくなってる!」

20年間ずっと見てきたあの“影”は消えておりその代わりにこの男が現れた。
朝から混乱のしっぱなしで桃太郎は頭が痛くなり座り込んでしまった。
男はそんな桃太郎を気にすることなく嬉しそうににこにこ笑いながら桃太郎を抱きしめた。

「あのね、僕は白澤。中国の神獣で神様なんだ。君は忘れてしまっているかもしれないけど君の前世はかの有名な鬼を退治した桃太郎でね、死後は天国の住人となって僕と恋仲だったんだよ!」

「…は?か、神様?神獣?俺が桃太郎の生まれ変わり!?」

「あ、恋仲はスルーなの?まぁ、いいや。そうだよ!だから桃タロー君は神気が溢れてるから今こうして僕を認識できるようになったんだよ。子供の時はまだ力の制御とかできなかったせいであんな真っ黒なおばけみたいにしか認識できなかったんだよね〜」

神気とか前世が英雄の生まれ変わりとか神様が俺の恋人…しかも男とかいろいろあり得無さ過ぎていっそ夢だったら良かったのに!と思ったがどうやらこれは現実のお話らしい。
本当、そういうのは某週間少年漫画の雑誌だけにして欲しい。

「あの…あの、白澤さん?とりあえず重いんで伸し掛るのやめてもらえます?」

「えーっ!久しぶりの抱擁なんだからもっとさせてよっはぁ、相変わらず桃タロー君はいい匂いだな。ムフフっ」

「っ、だからそのたおたろーってなんだよ!つーか気持ち悪いから離れろっ」

頬ずりされ、くすぐったさとなんともいえない感覚に鳥肌がたち桃太郎はめいいっぱい白澤を押しのけ顔を赤らめ白澤を睨んだ。


「ん〜桃タローっていうのは僕がつけたあだ名みたいなものかな?君の前世ではそう呼んでたんだ。ちなみに前世の桃タロー君も薬学を僕のもとで学んでいたんだよ」

「え、そう…なんですか?」

「うん、やっぱり生まれ変わっても魂の本質は変わらないみたいだね!」

「えーっとじゃあ白澤さんは恋仲であった桃太郎さんの生まれ変わりである俺を見守ってたってことですか?」

神様が一人の人間だけの傍につくなんてよっぽどの理由がないとありえないように思い首を傾げて白澤に尋ねた。男の話を全部信じるわけではないが男の存在といい多少は信じる価値があるだろう。白澤を見据え答えを待つ。

「ん〜見守るっていうか虫除け?害虫駆除?みたいな?」

「はい?な、なんですかそれ」

「だって可愛い桃タロー君に変な虫がついたら僕許せないもんっ桃タロー君は僕の恋人なんだから!」

「いや、それは前世の俺であって今は関係ないでしょう!?」

まさかの自分の予想を大幅に外れていた答えに桃太郎は口元を引きつらせおもいきり反論した。まさか前世が神様の恋人だったというだけで俺は一生恋人つくれず、結婚もせず終わってしまうのだろうか…頭の中ではそんなのはいーやだ!という歌詞が浮かんだ。

「大丈夫、今は前世の記憶が戻ってないから混乱してるんだよ、きっと戻ったら僕なしじゃ生きていけない!って思うはずだよっ」

何を根拠にそんなことが言えるのか桃太郎には到底理解できそうになかった。
…理解したいとも思わないが。
桃太郎が何も言えずかたまっていると何かを誤解したのか名案と言わんばかりに両手を叩きとんでもないことを口走った。

「そうだ!早く記憶が戻るようにえっちしようえっち!」

「はぁぁぁ!?なに言ってんだあんたっ変態、近寄るな変態死ね!」

「違うよ、僕は変態じゃない…君を愛しすぎる変態という名の紳士なんだ!」

「そのよく使い回される〈迷言〉やめろ!あんたはどこぞの変態熊かぁぁ!!」

さっきからツッコミ過ぎて喉が痛い。なんで20歳の誕生日にこんな目にあわなければならないのかと桃太郎は心の中で涙を流した。落胆する桃太郎にさらに追い討ちをかけるように白澤は桃太郎に口付け満面の笑みでこう告げた。

「我愛你、桃タロー君!めいいっぱい現世のラブラブ同棲生活、楽しもうね!」


誰か俺の貞操を守ってくださいとアパートの中心で叫びたい衝動に駆られた。まじで。真剣に。



ー…こうして俺と神様の同居…同棲生活が幕を開けたのだった。

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