パラレルトリップ(long)綾編
□sip's log 8
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「俺はお前が嫌いだ」
開口一番、吐き捨てるようにエヴァンが言った。
綾に対してはエヴァンは初めから冷たい対応だったが、時間が経つうちに彼は段々険悪な態度をとるようになっていった。
そしてとうとう、冒頭の台詞である。
綾は驚いた様だった。
「わ、私……エヴァンに何かした?」
「そういう事じゃねぇ。お前、女だろうが。肉体労働もできなきゃ戦闘にも加わらないお前が、ルークスに必要か? 役に立たないどころか、仲間に迷惑かけてるじゃねぇか。女は陸(おか)で大人しくしてりゃあ良いんだ」
綾は黙って俯いた。
エヴァンはそれを見て鼻先で笑った。
「これだから女ってのは……泣けば何でも許されると思ってやがる」
「エヴァン、もうよせ。ドクターが怒るぞ」
乗組員の誰かが声をかけた。
「何だよ、ドクターの女なのか?」
「ち、違っ……!」
綾が否定しようとするのを、エヴァンは遮った。
「守ってもらってるくせに悪びれもせず、強くなろうと努力もしない。俺はこんな奴の為に危険をおかしたくはないね!」
綾は反論できずに下層甲板に引きあげた。
確かに、いつも誰かが助けてくれた。
ドクター、キース、ケビン……いつも守ってもらってばかりだった。
それが当然と思っていた訳じゃない。
でもはっきりと認識してしまった今となっては、もうこのままではいられない――
「リョウ? どうかしたの?」
コックピットで声をかけられ、綾は我に返った。
ヒューが作業の手を止めて綾を見つめている。
「ううん、何でもない」
綾はにっこり笑ってみせた。
「ドクター、何かお手伝いする事ありますか?」
「いや、何も……ガーゼの消毒もしてもらったし、大丈夫だよ」
「カルテの整理でも……」
「いいよ、間に合ってる。暇なら、運動不足解消の為に上甲板でも歩いてきたらどうかな」
綾は俯き、黙り込んだ。
ヒューが次に顔を上げて見た時には、綾はもういなくなっていた。