パラレルトリップ(long)綾編

□sip's log 9
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ある日の事。


「リョウ」


シルバーが段ボール箱を抱えてやって来た。


「メイドさんとバニーちゃん、どっちになりたい?」


綾は飲みかけた紅茶を思わず吹き出した。


「何言い出すんですか、やぶからぼーに!」


「顔を真っ赤にして何を怒ってるんだ。園遊会の仮装の話だぞ?」


「何で二択なんですか! どっちも嫌ですよ!」


「残念だな」


「メイド服は以前キャプテン・アランがいらした時のでしょうけど、バニーガールの衣装なんて何処から手に入れたんですか」


「ケビンだ……ってのは彼に意地悪な言い方だな。倉庫にあったんだ。戦利品だろう」


「戦利品って……そんなものまでよそ様から奪うんですか」


綾は呆れた声で言った。


シルバーは箱をテーブルの上に下ろし、ふたを開いた。


「色々あるぞ。コアラの着ぐるみだろ、トラにウサギに、星の被り物……」


セ・リーグじゃないか、と綾は突っ込みたかったが黙っていた。


「ピエロだろ、銀河警察の制服、エプロン……」


シルバーがフリルたっぷりのエプロンを手に振り返った。


「リョウ、エプロン」


シルバーが言った途端。


ゴンッ。


綾の背後から分厚い『植物体系図鑑』全2265ページ、が飛んできてシルバーに命中した。


倒れるシルバー。


本が飛んできた方を振り返ると、ヒューがホコリをはたくように両手を叩いていた。


「ドクター?」


「今絶対裸エプロンって思っただろ、シルバー!」


綾の顔が真っ赤になった。


「船長、セクハラ!」


「何も言ってないだろうが……!」


「言わなくても分かる! 行こう、リョウ!」


ヒューは綾の手を引っ張って、ガンルームから立ち去った。


そのまま、船艙を覗きに行く。


船艙ではニコラが入口に下げてあるボードに何やら書き付けていた。


「ニコラも衣装探し?」


「ちょっと小物をね……あぁ、リョウちゃん。貴女に良いのがあったわよ。こっちこっち!」


ニコラは綾の手を掴んで奥の棚に案内した。


後ろからヒューが黙ってついてくる。


「良いの? ケビンに黙って物色しても」


「この時期だけ、持出厳禁、開封厳禁って書いてあるの以外なら自由にして良いんだよ」


ヒューがそう説明したので、綾も安心してニコラの手にした物を見た。


「これ……袴?」


綾に手渡されたそれは、桜を散らした着物と濃紺の切り袴だった。


「へぇ、シノワズリか」


「やだドクターったら。ジャポネズリよ」


ニコラは上の棚から髪飾りやら編み上げブーツやら一式を見付けて綾に手渡した。


「入口のボードに持ち出す物を書いて、サインしてね。後でパーサーがチェックするから」


「ありがと、ニコラ」


綾は船艙を出て、ニコラの背中を見送った。


倉庫内が薄暗いから気付かなかったが、ニコラが持ち出したのは、どうやら左手に握られた羽根付きの扇の様だ。


「あぁ……」


当日のニコラの装いに何となく見当がついてしまった綾は、小さなため息をついた。
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