パラレルトリップ(long)綾編

□sip's log 7
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アランに今後の事を尋ねられたシルバーは、


「しばらくカリアにいるよ。皆に休暇をやっても良いし……久しぶりに甲板で宴会ってのも良い」


と言っていた。


惑星カリアのとある入り江に停泊し、ルークス号の乗組員は休暇に入った。


「どうせなら、フェルミアで休暇を迎えたかったよなぁ」


入り江に程近い宿へ荷物を運びながら、スケイディがぼやいた。


「文句を言うな。シルバーの機嫌が悪ければこの休暇もなかったんだ」


キースが静かに言った。


綾は着替えを詰めたトランクを持って、彼らの後ろからついて行く。


キースが宿屋の前で立ち止まった。


一階が酒場になっている、こじんまりとした宿だ。


「チェックインしたら後は自由だ」


キースの言葉に、スケイディもケビンもアーネストも喜びの声をあげて宿の中へ消えた。


綾が皆に続こうとすると、キースが襟首を掴んで引き留めた。


「リョウ、お前は例外だ。勝手な行動は許さん」


「えーっ」


綾は不満そうに口を尖らせた。


「何も仕事しろとは言ってないだろう、不満顔をするな。」


キースは彼女の額にデコピンした。


「イタッ!」


「出かける時は俺に報告してから行け。犬は歩けば棒に当たり、お前が歩けばトラブルに当たる」


「しくしく……えらい言われよう……」


「つべこべ言うな」


キースは綾の手からトランクを奪い、部屋に投げ入れると、すぐ隣の部屋へ入っていった。


綾は猶も不満そうにベッドに倒れ込んだ。


「『キース、遊びに行ってくる』『5時には帰って来なさい』『はーい』って、これじゃ子供じゃない」


文句を言っていると、ドアがノックされた。


「リョウ、買い出しに行くんだけど、ちょっと付き合ってくれ」


ケビンが言った。


「えー……ケビンの買い物に付き合うと、ロクな目に会わないからなぁ」


「うわ、俺のせいかよ」


ケビンは苦笑した。


「皆いるし、大丈夫だよ。副長にも許可をもらってある」


綾がケビンに続いて宿から出ると、外にはヒューとアーネスト、スケイディ、それにニコラが待っていた。


ニコラはスケイディの部下、つまり掌帆手だ。


浅黒く逞しい体に、角刈り。


ノースリーブのフリルシャツ。


帆布を縫うより綾の洋服を縫う方が楽しみという乙メンだ。


「全員揃ったな」


アーネストが一同を見回した。


「何なのこのメンツ。本当に買い出し?」


綾が尋ねると、アーネストが軽く咳払いをして言った。


「我々は発作的甲板宴会のレク係に任命された」


「レク係?」


「ようするに、宴会の幹事だ。宴会で披露される芝居のキャストも兼任する」


「何それ。聞いてないけど」


「芝居の出演を拒否する権利は、キャストにはない。決めたのはディレクターの金髪さんだ」


そういった訳で、六人は芝居で必要な物を仕入れに行く事になったのだ。


市場は沢山の人で賑わっていた。


色々な店が、小さな露店いっぱいに品物を並べている。


「リョウ、はぐれないようにね!」
 

ヒューが振り返ると、綾はニコラに腕を絡ませて、笑顔で話をしている。


「リョウはウーロン茶派? ジャスミンティー派?」


「んーとね、ミルクティー派!」


「あっ、わかるぅー!」


お喋りに夢中で歩みの遅い二人が追い付くのを待ちながら、男達は呆れ顔だ。


「何だ、あの実のない会話は」


「あれが巷でいう『ガールズトーク』ってやつですな」


スケイディとアーネストが珍しい生き物を見たような顔で言い合った。


ケビンが色とりどりの布地が並べられた店の前で立ち止まった。


「ニコラ、白い衣装は帆布で良いよな? それ以外を購入って事で」


「それなんだけど、この一着は薄絹みたいのにしたいのよね……」


ニコラは綾の腕をほどくと、衣装のデザイン画らしき紙を手にケビンとアーネストと話を始めた。


手持ちぶさたのヒューとスケイディは小道具の話を始め、ケビン達を待っている間に必要な物を調達してくる事にした。


「リョウはここにいろ」


「えっ?」


ヒュー達は買物客で混雑する通りを器用にすり抜けて行く。


「待って、私も行く!」


綾は慌てて後を追ったのだが、途中で山積みのオレンジを担いだ行商人とぶつかってしまった。


「ご、ごめんなさい!」


綾は散乱したオレンジを広い集めてから急いでヒューを探したが、すでにその姿は見えなくなっていた。
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