パラレルトリップ(long)綾編

□sip's log 2
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数週間がすぎたある日の午後、綾は船尾甲板(コーター・デッキ)にいた。


前端手摺の真下に腰掛け、足をブラブラさせながらアーネストの仕事をぼんやり眺めていた。


アーネストはずっと、羅針儀箱(ビナクル)と呼ばれているコンピューターパネルを見ており、時折舵を操る乗組員と言葉を交わしている。


「リョウ、暇そうだな」


船首と船尾のデッキを結ぶ舷側通路(ギャングウェー)の方から、シルバーが声をかけてきた。


「あっ、船長」


綾の言葉に、アーネスト達がシルバーの方へ向き直り挨拶をして、すぐまた自分の仕事に戻る。


シルバーがデッキへ入ってこようとしないので、綾は小走りで彼のそばへ駆け寄った。


「だいぶこの船に慣れた様だな」


ギャングウェーをゆっくり船首の方へ歩きながらシルバーが言った。


乗組員が挨拶をしながらすれ違っていく。


「はい、すっかり!」


綾は笑って言った。


「もうトップマストだって平気だし、ロイヤルスルの展帆作業のお手伝いもできますよ」


「ほぅ、そりゃ頼もしいが……看護助手の仕事さえしていれば無理しなくて良いんだぞ。あまりうろちょろするな」


「あんまりする事なくて、退屈なんです。スケイディに頼んで、製帆作業にも入れてもらいました。怒られてばっかりだけど」


綾は得意気に首からぶら下げた網通し針を振って見せた。


シルバーは楽しそうに話す綾の顔を見ていたが、通路に誰もいなくなると急に真顔になった。


「リョウ、前に話していたヤハラケンイチという男の事だが」


「はい?」


「少し調べてみたんだが、単独でローダン星系内をあちこち移動しているみたいだな。何か特別な任務に従事しているのか?」


「スパイが簡単に喋ると思います? ……なーんちゃって、本当は何も知らないんですけどね」


綾は少し自嘲気味に微笑んだ。


「星系内は広い。そこからヤハラ一人を探し出す方法があったら良いんだが……」


綾は黙って俯いた。宇宙海賊が、自分の身を危うくせずに健一を探し出せる可能性が無に等しい事は綾にも分かっていた。


「聞いておきたいんだが……万が一ヤハラが見つかったらどうする?」


シルバーが尋ねた。


「彼の元に戻りたいか?」


綾は俯いたまま、小さく頷いた。


シルバーがため息をつく。


沈黙。


「何よ……」


綾は呟いてシルバーを見上げた。


瞳には涙が浮かんでいる。


「期待させる様な事言わないで! その気もないくせに!」


シルバーは黙っていた。


綾の声に気付いてキースが駆け寄ってきたが、シルバーが手で静止した。


「初めから私を解放する気なんかないんでしょう? だから船内では自由にさせたし、作戦を聞かれてもかまわなかった!」


綾の目から涙があふれた。


キースがギョッとした顔をする。どう対処すべきかわからず、立ち尽くしたままだ。


シルバーが何かを言おうと口を開いたその時だった。
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