パラレルトリップ(short)

□quarrel
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ドクターとリョウがケンカした。

「ヒューなんてきらいっ……!」

この台詞を聞いたのは、副長とドクターの決闘騒ぎ以来だ。

「どうせすぐに仲直りするんだろうよ」

わざわざモリーが言わなくても、皆そう思っていた。

ところが。

当直が何度も入れ替わり、船がどれだけ進んでも、二人は仲直りしなかった。

リョウはわざとドクターを無視し、医務室にも行かなかった。

「リョウ〜頼むからドクターと仲直りしてくれよぉ」

スケイディが情けない声で言った。

「あのセンセ、そうとう参ってるぜ? お前がわざと皆に優しくするもんだから、かなりイライラしてる。あんな状態で治療されたら、たまんねーよ」

リョウはぷいっ、と横を向いて一言。

「イヤ!」

スケイディは頭に手をやりながら、ため息をついた。


その日の午後遅く。

シルバーがガンルームにやってきた。

テーブルを叩いて静粛を求める。

「リョウが何者かに連れ去られた」

「何だって?」

「さっき買い物で下船した時、綾を連れていったんだ。だが彼女は姿を消し、この手紙が落ちていた」

『I KIDNAPED “BRUNETTE PRINCESS” !』

「ブルネットの姫君……この呼び方はまさか、フォックス!?」

「フォックスは俺達が確かに銀河警察に引き渡した。リョウの事が諦めきれなくて、ムショから逃げ出したってのか」

ガンルームは騒然となった。

「フォックス……」

ヒューは顔色を失った。

治ったはずの右肩の傷が疼く。

リョウの泣き顔がちらついた。

「ヒュー、大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」

シルバーが声をかけた。

「大丈夫だ。それで、これからどうする」

「船長! リョウの居場所を突き止めました!」

ガンルームにケビンが飛び込んできた。

いつもの手で情報を集めてきたらしい。

「崖の上の、古ぼけた空き家です! 男が一人、大きな麻袋を担いで入っていくのを見たという目撃証言がありました!」

バン!!

物凄い音に、ガンルームの一同は静まり返った。

皆が、テーブルに拳を叩きつけたまま動かないヒューをじっと見つめる。

「許さない……」

絞り出すようなヒューの声。

「よくも僕のリョウを……!」

「ヒュー、熱くなるな」

シルバーが肩に置いた手を、ヒューは乱暴に払いのけた。

「熱くなるなだって? ふざけないでくれ! リョウがフォックスに浚われたんだぞ!」

ヒューは真っ赤な顔をして、人差し指をシルバーの胸に突き付けた。

「大体、君がリョウをちゃんと……!」

言いかけた言葉を呑み込むヒューに、シルバーは首を傾げる。

「……どうした」

「すまない。僕が彼女をちゃんとつかまえておけば良かったんだ……」

ヒューはそう呟くと、肩を落としてガンルームを出ていった。
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