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□大好きな君へ
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最近、周りのヤツラの様子がおかしい。
「…何してんのォ」
「っあ、荒北…!」
「「なんだと!!?」」
今日もいつものように練習をこなし、部活は終了。しかしどうも走り足りなかった俺は1人でもう一周ほど外周を走ることにした。
そして無事自主練も終え部室に帰ってくると、マネージャーの徒野と東堂新開福チャンがいた。何だか中央で4人でコソコソやっていて全く俺に気付く気配もなかったので声をかけてやれば、面白いほど肩を揺らし、一斉に立ち上がった。
な、なんだァ?
「や、靖友!いたのか…!」
「アァ?いちゃ悪ィのかヨ。こっちは自主練してたんだっつーの」
「い、いや!実に良いことだと思うぞ!うむ!!なぁフクよ!」
「じ、自主練は大事だ。」
「そ、そうそう!それじゃあまたね荒北!!」
「ッあ、オイ!」
造ったような笑みを浮かべながら、4人はいそいそと部室から逃げやがった。残された俺は、ただ呆然とヤツラの背中を見送る事しかできなかった。
「…ッンだヨチクショウ!!」
ボトルをガンッと地面に叩きつけ、俺は吠えた。
そう、あの4人は、ここ一週間あからさまに俺を避けているのだった。
*******
「今日の練習は以上だ。自主練をする者は最終時間厳守で行え。」
終わった…今日もやりきったぜ。福チャンのその言葉に俺はもちろん、他の部員も全身の力が抜けたように声をもらした。
だが…。俺は重たい体を動かし、ローラーの上でペダルを回し始めた。あと少しでインターハイ出場をかけた箱学選手内での選抜レースが行われる。誰にも負ける気ァしねェがその先にあるインターハイに勝つためだ。キッツイ練習の後だろーがペダル回してやんヨ。
俺が1人でガンガンペダルを回している中、他の選手は部室へと消えていく。東堂たちもそうだった。オイオイてめェらまで自主練しねぇのか?嘘だろ。俺はペダルを回しながら横目で東堂たちをにらむ。
俺がいるから、アイツらも自主練できねぇ…のか?そんなバカな。一瞬そんな考えが浮かんだが、直ぐに頭を振りその妄想をかき消した。
いい、なんだっていい。避けられようが嫌われようがどうだっていい。インターハイで勝てりゃァ、福チャンをゴールまで運べりゃァなんだっていいんだ。
俺はハンドルを強く握り、さらにケイデンスを上げた。
******
「…っあー、つっかれた…」
自主練を終えた俺は、チャリから降りてそのまま床に座った。さすがに疲労が凄まじい。追い込みすぎた。なだれ落ちる汗を拭いながら、俺はどうにかして立ち上がろうと床に手をついた。
が、
「ッア!?」
瞬間、部室の電気がいきなり消えた。停電か?オイオイ嘘だろ…なんてついてねェ日なんだ今日は。俺はガシガシと自分の頭をかいた。明かりになりそうなモンは今持ってねェし、どうすっか…
するとだ。今度はどこかの扉がガラララと開いた音がした。しめた!誰か来た!俺は勢いよく立ち上がり、自分がここにいるということを知らせようと息を吸った。
しかしそれは、別の声によってかき消された。
「「荒北ァ!!」」
「!?どわッ」
女の声と、ウザッたい男の声。この声は…記憶を辿るより早く、部屋の電気が突然点いた。思わず目を閉じるが、今度はパァン!と大きな音で目をすぐさま開ける。
そして俺はその目を、大きく見開いた。
「「「お誕生日おめでとぉ!!」」」
「おめでとう。」
「……。」
俺の目に映ったのは、満面の笑みを浮かべた徒野と東堂と新開。そして相変わらずの鉄仮面の福チャン。
しかしその3人の手にはクラッカーと、徒野の手にはHappyBirthdayのプレートが飾られたケーキが置かれていた。
俺はあまりの突然の出来事に、固まってしまった。
「ごめんね荒北、どうしても驚かせたくて、荒北のこと避けちゃって…って、ん?」
「おい荒北どうした。まさか感動のあまり泣きそうなのか?」
「靖友ぉ恥ずかしがらなくても良いんだぜ?ほら、泣いてもいいぞ」
「荒北、喜んでくれたか」
そんな俺を無視し4人は口々に勝手なことを言う。そこで俺はハッと我に返り、今日が4月2日、自分の誕生日であることを思い出した。
おいふざけんなよ…まさか最近避けてたのって、このためか?なァにバカなことしてんだヨてめェら…
「ッたく…とんだバァカチャン達だぜ。インターハイの選手選抜レースも近いっつーのにヨォ。それ以外のモンは全部後回しにしろっつーのォ」
「…ふふ」
「ア?ナニ笑ってんだヨ徒野」
俺の言葉に萎縮するどころか笑顔を見せる徒野。コイツだけじゃなく、新開東堂もニヤニヤと、福チャンまでも少し口角を上げていた。
俺がそれに眉を顰めると、だって…と徒野が言葉を続けた。
「荒北、すごい嬉しそうな顔してるんだもん」
その言葉に、俺は喉をつまらせた。
うれし、そう…?
「荒北!」
「靖友」
「荒北ぁ!」
「荒北」
徒野をはじめ、新開東堂福チャンと俺の名前を呼んでいく。俺がそれにも答えず目を見開いていると、4人は声を合わせて言った。
「「「「生まれてきてくれて、ありがとう!」」」」
自分の顔に、熱が集まった。4人の笑顔に、自分の口角も自然に上がっていった。
「…アンガトネェ」
俺の口からは随分と小さい声しか出なかったが、それでも彼らにはしっかり届いたらしい。
大好きな君へ
君が生まれたこの日を
最高のものに
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