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□あけましておめでとう
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「ひぃぃ〜さむい…」

「っは、すげェ声」

「棗、俺の手袋を貸してやろう!」

「尽八、俺にも貸してくれねぇかい?」

「新開、お前にはこのカイロをやる」

「すまねえな寿一」


皆の声を聞きながら、私ははぁと息を吐いた。
真っ暗な夜空に私の息は白の色をつけ、ゆっくりと消えた。


今日は1月1日。
私達は先ほど今まで過ごしてきた年に別れを告げ、新たな新年とご対面したばかりである。

私達5人は今年は高校生最後だし皆で過ごそうということになって、寮で年越しそばを食べながら年を越した。男子寮に入っていたのは寮母さんにはもちろんナイショで。

カウントダウンを東堂新開と大声で一緒にし、年を越す瞬間はそりゃもう騒いだ。福富に新年早々うるさいと起こられたが。

そしてその後はどうする何すると皆でお決まりのことを話していると、新開が「じゃあ皆で初詣にでも行こうぜ」と親指を立てながら言うもんだから、皆年明けの高いテンションで「いーねぇ」といって、私達は早速外へと繰り出したのである。

そして、今につながる。


「にしても凄い人だね、今年も」

「ここら辺にはこの神社しかないからな、しかも大きいうえに鳥居が素晴らしく綺麗だ。まるで俺のようだな!!」

「ッセ東堂。
ヒトヒトヒト…どこ見ても人しかいねぇな」

「まぁそう言いなさんな靖友。食うか?」

「いらねェヨどっから貰って来たんだそのチョコバナナ!!」

「荒北。リンゴ飴もあるぞ」

「福チャンもかヨ…」


新年早々秦一コンビの天然ボケに悩まされている荒北は大きなため息をついた。


「お参りするでしょ?皆」

「当たり前だ!ここまで来たのならするぞ!」

「ハァ?並ぶのかよこんな大勢のとこォ」

「良いじゃんかぁ、今年は受験生なんだから、合格祈願てことで」

「はは、神頼みってやつだな」

「祈って損はないだろう。並ぶぞ」

「福チャァン…」


私達の目の前に広がる大行列。
それは賽銭箱へとつながる長い長い道のりだった。

普段は神頼みなんてしない福富も、どうやらこの場のノリでするそうで。裏切られた荒北は泣きそうな顔をしていた。

そうと決まれば早速私達は列に並ぶ。
皆たくさんお願い事しているのか、列は一向に進まなかった。


「皆何お願いするの?」

「ん?そうだなぁ…俺は今年も健康で生きるだな!」

「あ、新開は合格祈願じゃないのね」


笑顔でそういわれ、私は真顔で返した。
聞いた相手が間違っていたかな。


「東堂は?」

「む、そうだなぁ…この美形が今年も女子達に笑顔と幸福を与えられますように、だな!」

「しゃらくせぇ」

「俺にだけ当たりが強いぞ!!」

「で、福富は?」

「無視か!!」


横でギャンギャン泣き叫ぶ東堂を無視し、福富に向き直った。
そうこの2人に聞いたのが悪かったのだ。福富ならきっとマシな返しが期待できるだろう。


「俺は、りんごの値上がりがしないように、だ。」

「お前もかよ!!!」


私は頭を抱えて叫んだ。
なんでだ!なんで福富までそうなんだ!!マシな奴がいないのか箱学チャリ部は!!

…いや、待て。
いるじゃないか、もう1人まともな奴が。


「ねぇ荒北」

「ア?」

「荒北はなにをお願いするの?」

「ハッ、俺はカミサマなんか信じちゃいねェンだヨ」

「ふーん、そっか。
で、何お願いするの?」

「話きけヨ棗チャン」


そんなもの無視だ。
ねぇ何お願いするの、ねぇ、ねぇってば。と私がしつこく聞いていると、荒北は観念したのかアァ話すヨウルセェ!!と叫んだ。お前がうるさい。


「…そりゃァ、洋南合格だロ」


当たり前のこと言わせンな。と恥ずかしいのかそっぽを向いた荒北。
私はそれを聞いて東堂新開と目を合わせる。


「「「そこはボケろよ」」」

「ッセェんだヨ!!真面目に答えたって良いだローガ!!」


荒北はボケるより、ツッコミのほうが鋭かった。
チッと壮大な舌打ちをする荒北。初舌打ちいただきました。


「おいお前たち、順番が来たぞ」

「え、はや」


そんなことをしていたせいか、あんなに長かった列も気付けば賽銭箱は目の前で。
前の人がお祈りし終わり、いよいよ私達の番だった。


「誰がこの紐を振るの?」

「そこはまぁ」

「うむ、決まっているな」

「当たり前だろォ」

「あぁ、そうだよね!」


私達4人で納得したようにそう口々に言う。ただ1人、その会話に入れていない人物。
そう、我等が部長、福富寿一。


「福富」

「なんだ、徒野」

「この紐、揺すって」

「?」


頭をかしげる福富。
こんな些細なことかもしれないけど、私達はあなたが鳴らす鐘にお祈りしたいんだよ。あなたじゃなきゃ、ダメだから。

そう思いをこめて微笑めば、福富はわかったのか紐をとり、揺らした。


「二礼二拍一礼だぞ、お前たち」

「わかってるわよ、東堂」


本当は忘れていたけどなんて言えず、みんなで二礼して、二拍して、そのまま手を添えて、私はゆっくりと瞳を閉じた。


去年は、部活のことをお祈りした。
インターハイが、優勝できますようにって。

生憎、神様にその願いは届かなかったみたいで、今年はインターハイ優勝できなかった。

だけど、ならこれだけは届いてほしい。
今年のお願いだけは、どうか叶えてください。


数秒間、ずっとお願いをして
私はゆっくりと瞳を開けた。


皆で一礼して、列からはずれた。



「皆ちゃんとお願いした?」

「あぁ、もちろんだぜ」

「抜かりはないな!まぁ俺はいつまでも美形のままだが!」

「俺の願いは、強い」


皆でニコニコしながら歩く。
これから丘を登って、初日の出を見るつもりだ。

すると数歩前を歩いていた荒北がくるりと振り返って、私を見た。


「ところでヨ、」

「なに?」

「オメー散々人には願い事聞いといて、自分だけ話してないんじゃナァイ?」

「え」


私は思わず固まってしまった。
ちくしょう、さすが野獣荒北…やりすごせると思っていたのに。奴が鋭いのはツッコミだけではなく勘もだったか。


「そういえば聞いてないな、おめさんの願い事」

「そうだぞ棗!聞かせろ!」

「…や、やだ」

「「なんでだ!!」」

「まさか…りんごのことか?」

「うん…福富は大学行ってもその純粋なままでいてね…」



私はギャーギャー騒ぐ3人をシカトして福富に微笑んだ。
その後も彼らは何回も私を問いただしてくるが、私は一向に答えなかった。

しかし私はふと、思い出したように足を止め、皆に振り返った。


「…あのさぁ」

「なんだ棗、話す気になったのか!?」

「勿体ぶってねェでサッサといえヨ」

「で、棗のお願いは?」


わくわくした顔の3人と、相変わらず鉄仮面の福富。

私はその三人の顔をまじまじと見て、そして、言った。




「今年もよろしくね、みんな」



4人は一瞬びっくりしたような顔をして、それから



私の大好きな笑顔で、笑った。













あけましておめでとう
どうか今年も
この4人と、変わらず笑っていられますように










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