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□Merry X'mas
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「それじゃ、くじ引きで負けたお二人さん、買い出し頼むぜ」
私は自分のくじを見て、固まっていた。
今日は12月25日
そう、年に1度のX'masである。
街はイルミネーションによって煌めき
人々のテンションは高まり
子どもはサンタクロースを待ちわび
世のカップルはお互いの愛を確かめあう
そう、そういう日なのだ
クリスマスというのは。
なのに、
「ったくどこもかしこも人だらけじゃねェか!ウッザ!」
「……。」
どうして私は、イルミネーションのイの字も似合わない歯茎剥き出しのグッキーと、そんな街に繰り出しているのだろうか。
事の発端は、なんだったか。
そう、いつものメンバー(私新開東堂福富荒北)でクリスマスパーティーをしようとなったのだ。非リア充の集まりである。
しかし奴らに計画性があるわけなく、パーティーで使う物とか食べ物を一切買っていないと。そこで1発かましてやりたかったが、くじ引きで負けた二人がいこうということになり、私は渋々それに従った。
が、もうここでお分かりいただけただろうか。
そう、見事くじ引きで選ばれたのは、私と荒北でした。
しかも、だ。
「オイ何ボーッと突っ立ってんだヨ。早く行くぞ」
「あ、う、うん」
私はこのグッキーに、ずっと前から片思いしている。
絶対これ仕組まれたと思う。言ってないはずなのに何故だかあいつらも私が荒北に思いを寄せていることを知っていて、さっきだって教室から出てくるときずっとニヤニヤしていた。福富を除いて。
そりゃぶっちゃけ嬉しいさ。こんなリア充しかいない街を?愛しの荒北くんと?歩けちゃったりして?あぁそりゃあ嬉しいともさ???
だけど、
「ケッ、ンでこんなウゼーカップルしかいねェ間をお前と歩かなきゃなんねーんだろうナ。」
「あははははそりゃ私の台詞かなあああ」
荒北は、私のことをなんとも思っていないのであった。
私も無駄に対抗して笑いながらそういうが目は笑っていない。寧ろ滝のような涙を流しそうだ。
それから次々にお店に入っていき、必要なものを調達していく。百均で買った仮装道具をジャンケンで負けた私が持ち、その後はスーパーに入った。
お財布を持っている荒北が会計している間に私は袋詰めしていくが、これがどうやら結構重い。ジュース2本入ってるしね。
荒北は一応ロードレースをやっている訳だし、体に付加をかけるわけにはいかない。2つに分けられた袋の重い方を持ち、レジにいる荒北の帰りを待つ。すると程なくして彼は来たが、
「おー、お帰り」
「……お前」
「?」
私のことを凄い目で見ていた。え、まだ、仮装してないんだけど。あ、仮装しなくてもお前は素顔で仮装できてるってことかな?ハーーーーーーイ。
そんな思考を巡らしてまた一人真顔で笑っていると、右半身に掛かっていた負荷が突然消えた。
「……え!ちょ、荒北なんで!」
「ッセ、テメーはこっち持ってろ」
「でも」
「でももすともねェヨ。さっさと来い!」
「は、はい!」
気迫に負けて思わず敬語で返事をしてしまった。
気づけば荒北は先程まで私が持っていた重い袋を持っていてくれて、私はお菓子とかが入った軽い方を持たされていた。
……荒北のこういうところ、やっぱ好きだなぁ。
私が一人でしみじみ思っていると、店から先に出た荒北が「うぉ」と声を上げた。なんだ?
私も後に続き荒北と同様見上げると、同じように声を上げた。
「きれー……」
先程までほんの少しだったイルミネーションが、まるでクリスマスラストを飾るかのように豪華に煌めき輝いていた。
「すごい、すごいよ荒北!ラッキーだね!」
「アァ?まぶしーだけだろ」
「……ねぇ」
「ア?」
「ちょっと、見ていかない?」
荒北の服を空いている方の手で掴んで、言った。
せっかくのクリスマスで、しかも街にいて、更には荒北と二人っきりだ。こんな機会、もう絶対に訪れない。
だめ、かな。
緊張からか震える声を必死に振り絞ってもう一度聞くと、荒北は「わァーったヨ!」と言った。
ちょうどベンチが空いていたので、そこに荷物を置いてから座る。
イルミネーションが見える絶好の場所だ。
うわ、なんだか、カップルみたいだなぁ。そんなことを考えて、にやける。
どうせ荒北は、まぶしーなとしか思ってないんだろうけど。
「なァんか」
「ん?」
「カップルみたいだネェ」
その言葉に、私は一気に顔が熱くなったのを感じた。
荒北、うそ、まさか。
「ッオイ!なんか反応しろヨ!!」
「い、いやだって……」
「アァ!?」
「……お、同じこと、考えてたから……」
「ッ!」
それを告げると、今度は荒北が顔を真っ赤にした。耳まで。
二人して口をパクパクと開いて、顔を真っ赤に染める。
恥ずかしくて、死にそうだ。
「〜っバ、バッカじゃねェ!?バァカだ!!」
「ば、ばかじゃないし!荒北のがクソバカじゃん!」
「クソとか言ってンじゃねェヨ!」
赤鼻のトナカイならぬ赤っ恥荒北はベンチから立ち上がる。
え、もう帰っちゃうの?もう、見にこれないのに。こんな機会ないのに。
私が一人で焦っていても、荒北は知る由もなく歩いていく。その背中が遠くなるごとに、その距離が私達の距離を表しているような感じがして、酷く苦しくなった。
嫌だ、そんなの。
いつまでも逃げるなんて、嫌だ――!
「あ、荒北!」
「アァ?」
「……来年も、一緒に来ようよ!」
伸ばした右手は、荒北の服を掴んだ。
何を言ってるのかなんて分かってる。恥ずかしくてさっきから死にそうだ。もう瀕死状態だ。
しかし荒北は何の反応もしめさず、振り返りもしなかった。
「……あ、はは。なーんてね」
私はパッと手を離し、笑う。今度は辛くて死にそうだ。
そうか、そうだよね。好きでもない奴からこんなこと言われたら、キモいよね。
やっぱり荒北は、私のことなんてただの友達としか思っていなかったんだろうな。なんでこんな勘違いしてんだろ…
なんで……
「来年だけで良いのォ?」
「……え?」
顔をあげると、荒北がこちらを振り返っていた。
荒北の後ろには大きなツリーがあって、彼を背後から照らしている。
「来年だけじゃなくて、再来年もその次も、ずっと行ってやっても良いけどォ、ドウ?」
「――!」
目を見開く。
まってよ、そんなこと言われたら、また勘違いしちゃうじゃん……。
「……勘違い、しちゃうよ」
「良いんじゃナァイ」
「イルミネーションだけじゃなくて、色んなとこも行きたい」
「俺が好きそーなとこなら、ドコデモ」
「……学校も、一緒に帰ったり、お昼食べたり、したい」
「つってもお前も俺も寮までだけどネ。昼は俺の好きな肉食わせてヨ。」
「……っバカじゃないの」
もう涙が溢れでそうだった。
勘違いどころじゃ、すまないじゃないか。
「だから、ヨ」
「?」
「今からいうこと、耳かっぽじって聞けヨ」
荒北はそう言って、私に顔を近付ける。
そして、耳元で囁いた。
Merry X'mas
(あの二人、うまくいったかな。)
(当然だ。俺達がわざわざ仕向けてやったんだ!)
(まったく、両思いだったってのに、随分と時間かかったな)
(似た者同士ということだろう)
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