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□いい夫婦の日
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「うぅぅ〜…さぶ…」


早朝5時。
冬に近付くにつれ起きづらくなる朝。自分に鞭を打ってなんとか布団から這い出た私は、体をぶるぶると震わせながら雨戸を開けた。

天気は晴れ。お日様さんさんでもこんなに寒いなんて、しかもまだ冬本番じゃないなんて、これ以上下がってしまったら私は凍え死んでしまうのではないかと一瞬思った。

水を少し流してから温まったお湯で顔を洗い、自分の身仕度を多少済ませる。そのあと洗濯物を干し、軽く部屋を掃除をする。"旦那さん"が綺麗な部屋で過ごせるために、私が密かにやっている毎日の日課の1つだ。

それから朝食の支度に取り掛かる。ご飯を炊き、彼の好きなお味噌汁を作る。トーストにスクランブルエッグといった朝食もいいが、朝からしっかり食べてもらいたいし、何より健康でいてもらいたいからだ。

気づけば時刻は6時を回っていた。朝食も作り終え、一段落したところで廊下から足音が聞こえた。あぁ起きたなと音で確認し、その人物が居間の扉を開けた。


「…………ハヨォ」

「おはよう、
靖友。」


半年程前に、高校3年生から6年の付き合いを経て、今私に名前を呼ばれた頭はボサボサ顔なんて寒さと眠気で不機嫌MAXの顔をした荒北靖友と私は、見事ゴールインを果たしたのである。

新婚ほやほや?の私達だが、自分たちなりにのらりくらりと、今日まで仲睦まじくやってきている。


「顔洗った?」

「……洗ったァ」

「じゃあご飯にしよっか。ほら座ってて」


こくりと頷いた彼にかわいいなーなんて思いながら、私はさっき作った朝食を皿に盛る。靖友は朝が弱い訳ではないけれど、寒さが大の苦手なので、今日みたいな殺人者みたいな顔で起きてくるんだ。

先程も言ったがそんな彼を可愛いと思ってしまった私は、もう末期であろう。


「はい、どーぞ」

「……ウマソォ」

「ふふ、ありがとう。じゃあいただきます」

「いただきます」


二人で手をぱんっと叩き、挨拶する。
朝食を食べながら、段々頭が覚めてきた靖友とご飯を食べながら、談笑する。

こんな当たり前の夫婦生活が、私はどうしようもないぐらい幸せだ。





「それじゃァ、行ってくる。」

「うん、行ってらっしゃい。取引先殴っちゃだめだよ」

「殴らねェヨ!棗もこの前みたいに鍋焦がすなヨ」

「はい……」


いじわるな笑みを浮かべながらそう言う彼。靴をとんとんと履いて、もう仕事に行く準備は万端らしい。よっし行くかァと靴を履き終わった彼は立ち上がり、そしてそのまま、


「はいじゃァ行ってきますのチュー」

「んっ!?」


ぷにっと私の唇に自分のを重ねた。いつもしていることだが不意打ちをくらい固まっている私を、楽しそうに楽しむ。

そしてヒートアップしそうになったところで、私が彼の肩をどんっと叩き、止めるのだ。


「あぁぁぁ行きたくねェ棗といてェェェェェ」

「はーい行きましょうね」


この台詞もいつもと同じ。
ぐずる彼の背中を押し、外まで見送る。


彼の大きな背中が、私は大好きだ。










*********




夕食の支度も終え、洗濯物も皿洗いも掃除も終わらせてしまった私は、お茶を飲みながらテレビを見ていた。

するとその中の特集で、 本日11月22日はいい夫婦の日!…と題されたコーナーが映し出された。

そこで私は、今日がそんな日であつたことを知る。


「いい夫婦の日かぁ……」


新婚さんから熟年夫婦の方々がインタビューを受け、幸せそうにお互いのことを述べている。その光景を羨ましいなぁと、少しだけ思ってしまった。

私と靖友は友達から始まって、そして付き合った。だから彼のことは知っているし、極度の恥ずかしがりやで口下手だということも知っている。

だから、彼が付き合ってからあまり自分のことを好きといえないのも、理解しているつもりだ。

ただ、ちょっと寂しいけれど。


「ただいまァ」

「!っお、お帰り! 」


玄関の方で扉の開く音と、同時に愛しの旦那さんの声が聞こえた。テレビを消し、パタパタと彼を迎えに行く。

……と、なんだか彼がそわそわとしていたのに気付いた。


「?……どうしたの?」

「……ヤ、別に」

「ご飯できてるから、着替えておいでよ」

「……ワカッタ」


なんだかぎこちないなぁなんて思いながら、私は夕食を温めにリビングに戻った。

私がご飯をテーブルに並べていっている途中で靖友が着替えて居間に来て、俺も手伝うなんて言ってくれて、お言葉に甘えて手伝ってもらった。

そして二人で席につき、いただきまーすといつものように……言おうとしたところで、


「棗」

彼が真剣な顔で、私を呼んだ。


「なーに?」

「……あのヨォ」

「うん」

「……アー」

「?」


彼は暫くアーとかンーとか言いながら、自分と葛藤する。そんな彼を私は笑顔で見守りながら待つ。

と、決心したらしく、もう一度名前を呼んで、私を真剣な瞳で見た。


「今日、何日?」

「んーと……11月22日だね」

「なんの日か、わかるゥ?」


私はそこで、まさか。と思った。自分達夫婦にはそこまで関係のないイベントごとだと思っていたから。

でも、もしかしたら、そんな期待を持ちながら私は答えた。


「いい、夫婦の日?」

「ソォ」


靖友がニコッと笑って、瞬間バサッと音がした。


「………こ、れ」

「棗」

「やす、」

「いつも、アリガトォ」


彼は私の大好きな花の束を私の前に差し出しながら、真っ赤な顔でそう言った。


「付き合ってから6年、結婚してから半年、お前には感謝してもしきれねェって、ずっと思ってた。
いつもうめェ飯作ってくれて、服も毎日かかさず綺麗に洗ってくれて、俺が過ごしやすいように部屋も毎日綺麗にしてくれてたことも、ありがとう」


彼はもっと真っ赤な顔で、でも真剣な顔で、私に向かってそう言った。

私はびっくりしたのと、感動したのと、嬉しいのと、色んな感情をごちゃ混ぜにさせながら、ぽろぽろと涙を溢した。


「……やすとも、」

「普段あんま言えねェケドォ……その、なんだ、」

「……。」

「……棗」

「……は、い」


彼が自分と私を席から立ち上がらせる。私は彼を、静かに見つめる。

彼は耳まで真っ赤だが、もうやけくそになったのか、私の大好きな笑顔を浮かべながら、口を開いた。





「愛してる」





それを聞いた瞬間、私は靖友に飛び付いた。















いい夫婦の日
あなたと出逢えて
あなたとこれからの人生を歩めて
私はとても、幸せです。








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