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□イジワル彼氏
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「ねぇ靖友!靖友ってば!!」

「アァ?…ンだよ棗か」

「なんだとは失礼ねー」



私、徒野棗には彼氏がいます。
クラスは違うけれど、三年間委員会が同じで仲良くなった、荒北靖友くん。

そんな彼ともう1年もお付き合いしている私ですが、最近悩みがあります。



「ねぇ靖友、今日の放課後デートしようよ。」

「アーじゃあお前ン家行くわ」

「もう、お家じゃなくて外!出かけようってばー」

「メンドクセェなァ…1人で出かけりゃ良いだろ」

「靖友…」

「ハッ、そんなに行ってほしいんならァおねだりでもしてみせろヨ、棗チャァン」



彼氏が、最近意地悪に拍車がかかってきたということです。

今も冷たい事を言われ泣きそうになっている私を見て喜んでいるドエス北は、嬉しそうに私の顎をなでています。ぶっ飛ばしてやりたい。



「…っもういい!知らない!!」



私は靖友の手を振り払い、教室までの道を走った。




靖友のバカ、歯茎、元ヤン!!
私のこと、嫌いなわけ!?だからこんな意地悪してくるの!?


走っている最中、にじんでくる涙をやや乱暴にふき取り、私は足を速めた。

















*********






「あんたさーもう潮時なんじゃない?」

「…え?」



放課後。
あれから靖友からの連絡はなく、結局行きたいところ、新しくできたショッピングモールへは友人と来た。

彼女が自分の言動のせいで怒ったっていうのに、連絡の1つも寄越さないなんて最低よ!…と、他にも様々な愚痴を友人にこぼしていると、友人からの強烈な一言が私の胸を射抜いた。

潮時…って、なにが?
私と、靖友が?



「ちょ、それってどういう…」

「だって、付き合いたてのときはあんたにそんな態度とらなかったじゃない、荒北くん。」

「それは、そうだけど…でももう一年経ってるし、お互い素になってるっていうか…」

「でも、それであんたが傷ついてるのも事実。大体お互い慣れてきたからって、そんな意地悪してくるなんて有り得ないのも事実。」

「うっ…」



友人の発言はぐう正論だった。私は何も反論できず、ただ頭をガックリと下げる。

確かに、同じクラスのユミちゃんは彼氏と2年だっていうのにまだラブラブだし、ミカちゃんなんて同じぐらいなのに彼氏はすっごい優しいっていってたし…



「私、嫌われてるのかなぁ…」



なんだか、むなしくなってきたぞ。
友人のいう通り、そろそろ潮時なのかもしれない。

靖友は暇人の私とは違い自転車で忙しいし、自転車と福富くんラブだし、てかもともと女そんな好きじゃなさそうだったし、

でもじゃあなんで、私に告白してくれたんだろう。一時の気の迷いだったのかなぁ。



「まぁよく話し合うことね、棗。最後ブン殴って別れちゃえばいいのよ」

「…うん、ありがとう。」

「いいえ。それじゃあ私行くね。ばいばい」

「うん、また明日。」



入り口付近で友人と別れを告げ、まだ時間があった私は店内をふらつくことにした。

靖友と私が、別れる。
そんなこと、考えた事もなかった。

靖友に告白される前から彼のことが好きで、告白されたときなんて天にも昇る勢いで、この一年間、とても幸せな日々を送ってきた。

だけど、段々とでてきた靖友の意地悪に私が耐え切れなくなって、私が怒るようになって、気付けば彼との間に大きな溝ができていたのかもしれない。


もう、終わりにしたほうが、いいのかもしれない。



「……やすとも…」



あ、また目が霞んできた。
私はゴシゴシと目元を拭い、近くにあった壁に寄りかかった。

すると、足元にできた、自分の影ではないなにか。
私は不振に思い、顔を上げた。

が、そこにいたのは予想だにしなかった人物たちだった。



「ほーらやっぱかわいいだろー」

「本当だ。しかも女子高生。」

「かーわいー」

「…っ!」



私に詰め寄り距離を縮めてきたのは、3人と見知らぬ男。
私は急な出来事に、持っていた鞄を握り締める。



「おいお前らなんま詰め寄んなよーびびってんじゃねぇか」

「カーッ、このびびってる顔もたまんねぇな」

「ねぇお譲ちゃん、今から俺たちと遊ばない?」

「っな…」



間違いない、これは、
ナンパだ。


今までナンパなんてされたことがなく、こういった類に免疫のない私は、ただ体を震わすだけだった。
なんで、今日に限って。靖友がいない今日に限って。

普段靖友と歩いているときナンパなんてされなかったし、きっと私は人生でナンパというものをされない魅力のない女なのだとずっと思っていた。

それに私は元々男性が得意でないため、今の私の頭は初めてのナンパ+相手が男ということで、パニック状態に陥っていた。



「あれま、完璧にびびってやがる。」

「いいんじゃね。泣いてても騒いでねぇし、このまま連れてっちゃえば」

「それもそうだなー、それじゃあ行こうぜー」

「やめっ…はなして…!!」


グイッと腕を引っ張られ、私は抵抗するが全く敵わない。そのままズルズルと引っ張られてしまう。あまりの恐怖に、涙が止まらない。


いやだ、怖い、こわい。



助けて、たすけて


靖友――――!!!





「オイ」




私の鼓膜を、聞き慣れた愛しい声が揺らした。

瞬間的にバッと私は顔をあげ、後ろを振り返る。3人の男達も同じように。

そしてそこにいたのは、



「や、やすとも…!!」



眉間にこれでもかというほど皺を寄せた、不機嫌オーラマックスまたの名をヤンキー時代荒北の顔をしている靖友が立っていた。



「あぁ?なんだてめぇ」

「そりゃァこっちのセリフだよブタ野郎ども。その女からテメェらのきったねェ手ェ離しやがれ。」

「あぁ!?んだとコラァ!!」

「靖友…!!」



靖友の言葉に男達はキレ始め、吠える。
しかし靖友はそれに怯えることなく、息を1つはいて、







「……もう一度言う、離せ。」







人を殺してしまうんじゃないかというほどの低い声と目を、男達に放った。



「…ッチ、行こうぜ!!」

「クソガキが!!」

「ウッセーとっとと去りやがれ」



男達は靖友に小さく罵声を浴びせながら消えていった。
残されたのは呆然とした私と、靖友。



「…やす
「こォのバァカチャンがァ!!」



近づいてきた靖友に声をかけようと口を開くと、靖友はそのまま私の額に思い切りデコピンを放った。本気で痛い。
私はしばし悶絶し、反論しようと顔を上げた。



が、瞬間鼻を掠める良い匂い。


靖友の匂いが、すぐ傍にあった。



「…やす、とも?」

「…ったく、心配かけさせてんじゃねェヨ、このボケナスが、アホが、バァカが」



私は、靖友に抱きしめられていた。
靖友はいつもじゃ有り得ないってぐらい優しい手つきで、私の頭をなでていた。



「…靖友、どうして助けてくれたの?」

「アァ?何言ってンだヨお前」

「靖友は…私のこと嫌いなんじゃ…」

「ハァ?なんだそれ」

「だって…!靖友ってば最近意地悪ばっかするし、前と全然態度違うしっ……もう私のことなんて、嫌いになっちゃったのかなって」

「…つくづくマヌケだなお前はァ!」

「あだっ!」



ガンッと靖友の頭突きが私を襲う。これまた私が悶絶していると、靖友がきつく私を抱きしめた。



「お前のこといじめてたのは…アレだ、」

「?」

「…反応がァ…お前の反応がいちいちカワイイせいだからだっつーんだヨバァカ!!」

「!!」



顔を真っ赤にさせ靖友がそう叫ぶもんだから、私の顔も一気に真っ赤になった。
心臓早い、靖友。



「嫌な思いさせてたみてーで…悪かったな。」

「…そうだよ、ばぁか」

「うるせぇ、テメーがバカだバァカ」

「嫌われたのかと思った。もう別れた方が良いんじゃないかって思った。」

「アァ?………ありえねーだろ、そんなん」

「…ねぇ、靖友?」

「ア?」



グリグリと押し付けていた顔をあげ、私は靖友の顔に自分の顔を近づけた。

そして彼の耳元で、囁くのだ。




「大好き」

「…ハッ、うるせーヨ、バァカ」





彼はまた意地悪なことを言うけれど、
それが照れ隠しなんだって、わかったよ。































イジワル彼氏
(そういえばなんでここにいたの?)
(……別にィ?たまたまァ)
(着いてきてたんだね)
(バッ…ちげェヨ!!)










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