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□猫の手借りたら
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「オラ、ンなトコで寝てンじゃねェヨ。
俺の場所だっつーの、そこは」



昼休み。
購買で勝ち取ったメロンパンと、猫の缶詰が入った袋を揺らしながら、俺はとある場所に来ていた。

人があまり来ない、校舎裏のベンチ。
そこが俺の穴場。


そこに近づくと、これまたお決まりのモノ。
ベンチの上で丸まっている、黒い物体。
俺が呼びかけると、それはむくりと顔を上げた。


俺が一年ン時はくそチビであったはずの、黒猫。
今はデカさMAXだ。


俺が横に座ろうとすると、デブ猫はひょいっとベンチから降りた。
俺の足元で、早くエサを寄越せといわんばかりに、ニャーニャー鳴きやがる。

アーウルセェウルセェ。



「ッセェ!わーったから鳴くな!!」

「ニャー」



猫の前に缶詰を開いてからおくと、嬉しそうにガツガツ食べ始めた。
俺もメロンパンを開け、食べ始める。


今日は晴れだ。
うぜぇくらいの晴れだ。


空をボーッと眺めていると、また猫が鳴き始める。
下を見ると、一瞬のうちに猫は缶詰を食べ終わっており、俺の横にひょいっと移る。


俺の太ももにすりより、目を閉じる。



「ハッ、食べたら今度は眠ィのカヨ」



グリグリと猫の頭をなでると、猫は擦り寄ってきた。
その仕草はどこか、とある人物を思い浮かばせる。



「ったく、飯かっくらってばっかじゃねェで、少しは俺に恩返しでもしろヨ」



俺がそう呟くと、猫はまた鳴いた。
黒い毛を撫でる。

あいつも、真っ黒な髪の毛してンよなァ。
今時のジョシコーセーにしては珍しい、黒髪。

サラサラで、振り向いたときなんて、イイ匂いがしやがって…



「グニャー」

「どわッ!乗ってンじゃねェヨ重ェな!!」



俺がアイツのことをふわふわと頭に浮かばせていると、猫が俺の膝の上にドスンと乗っかってきた。

重ェ、重すぎる。




「太りすぎなんだヨオメーは」

「ナーォ」

「オメーもそろそろダイエットだな、ダイエット。
暫く缶詰じゃなくて、ダイエット用フードにすっか」

「ウニャー」

「ウニャーじゃねェよボケナス」



そのまま俺の膝の上で寝やがった。
俺はため息を1つついて、瞳を閉じる。

黒い毛で覆われた猫をなでながら、
またあいつを自分の思考へと呼び戻す。


入学してから、荒れに荒れていた俺に
他のヤツラと同じように接してきたあの女。

猫のようにふらふらとした奴で、
だけど自分が安心できる場所にはずっといる奴で。


俺に擦り寄ってくるのも、
きっと気まぐれなんだろうケド。


それでも俺は、その猫に心を奪われちまったらしい。



「………棗」



俺の膝の上で眠るデブネコ目掛けて、
普段は呼べないあいつの下の名前を呼ぶ。


……キメェな、俺。


あいつは猫で、俺を例えるなら狼のはずだというのに、狼は猫一匹にすら勝てねェ。


いまだって、猫に膝の上のっかられってしな。
野獣荒北が聞いて呆れるぜ。



「おっまえ、自然界じゃ今頃食われてっぞ。」

「ナァ?」

「俺に感謝すんだなー、オメーは」

「ニャー」

「そうそう、ニャーな。」





猫に微笑むと、猫も嬉しそうに鳴く。
俺はそのまま猫の額にキスをした。






























猫の手借りたら
(何してるの、荒北)
(!?徒野!?)
(ニャーォ)










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