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□ベプシに託して
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「棗、今日しかないって!」
「そうだよ!今日以外いつ言うのよ!!」
「う、うううう…!!」
「「泣いてる場合か!」」
春。つい先日咲いた、学校の桜。
それがぱらぱらと散るのを見ることなく、私は、いや私達三年生は、今日、卒業する。
箱根学園で過ごした三年間。楽しかったなぁ。
なんといっても一番の思い出は、部活。
汗水流して一生懸命マネージャー業に勤しんだ、箱根学園自転車競技部。
今年はインターハイで優勝もしたし、本当、自転車部入ってよかった。
あぁ、思い出を振り返っていたら、また涙が…。
「だっから棗!あんたは泣いてる場合じゃないでしょ!」
「ぶえっ!」
友人のハンカチで、顔を押さえられる。
思い切り変な声がでた。
そう、冒頭に戻るが、
卒業式が終わり、最後のHRが終わった今、皆が別れを惜しむはずであろう今、私は友人達に追い詰められている。
それも何故かというと、だ。
私には、2年生の頃から想い人が、いる。
のだが、その彼は後輩で、今日でその彼とはお別れなのだ。
しかも引退してから受験やら何やらで、まったく会えていなかったし、寧ろ疎遠になっていた。
もう会えるかわからないんだぞと、今日絶対に告白しろと、押されている次第である。
わかっている、いつかは伝えたいと思っていた。
引退するまでは部内恋愛はしたくなかったし、ばれたくもなかったので皆に内緒にしていた。
この秘めた思いを伝えるには、今日しかないんだ。
「…わかった、言うよ」
「よし、よく決意した」
「報告待ってる」
彼女達は私に親指をグッと立てる。
こいつら、完璧に他人事だと思いやがって…。
「徒野〜最後のミーティング行くぞ〜」
「あ、はーい!」
「「がんばってね〜」」
同じ学年の自転車部の部員に呼ばれ、返事をする。
手を振る友人達に向かって手を振り、私はその場を後にした。
*********
「……ということで、俺からの言葉は以上です。
三年生の先輩方、ご卒業誠におめでとうございます。」
福富くんがペコリと頭を下げ、部長の挨拶は終わった。
最後に2年1年の部員が、私達に今度は全員で頭を下げ、「ありがとうございました!!」と叫ぶ。それだけで、私の涙を誘うのには十分だった。
私達三年も立ち上がり、頭を下げる。
こいつらに負けないぐらいの大声で「ありがとうございました!!」と叫ぶ。
これで、私の箱根学園自転車部マネージャーとしての役目は、完璧に幕を閉じた。
そして、ミーティングが終わり、部員同士で最後の雑談。
私も後輩のマネと喋ったり、新開くん、東堂くん、福富くんたちはもちろん、たくさんの部員とも最後の会話を交わした。
しかし、だ。
(あれ、いない…?)
先ほどまでミーティングに参加していた私の想い人、荒北靖友は、いつの間にかその姿を消していた。
「荒北さんスか?」
「あ、黒田くん…」
後ろから声をかけてきたのは、2個下の黒田くんだった。
彼のすごい髪色の髪が、私の中でとても印象的になっている。
て、え?
「な、な……!?」
「なーに今更驚いてるんですか。わっかりやすいんですよ、徒野さん」
「!!!?」
黒田くんから出てきたその名前に、私の頭はパニック状態。
なぜ、え?わかりやすかった???
「まぁ気付いてるの俺ぐらいなんで、大丈夫じゃないすか?」
「く、黒田くん…こわ…」
「荒北さんなら、外でたとこのベンチに座ってますよ。」
「そ、そう…」
黒田くんは全て悟ってます顔で私にそういってきた。
あぁ、黒田くん、どこか荒北くんと似ているなと思うとこあったけど、まさか勘の鋭さまで似てくるとは。
てか、外か、荒北くん。
確かに彼、こういうみんなでガヤガヤの雰囲気好きじゃなかったよなぁ。
「良いんすか?行かなくて」
「…何よ」
「だって、今日言うんじゃないんすか?」
「!!なぜそれまで…!!」
「勘すよ。
皆、まだ話続くと思いますし、今のうちに行ってきたらどーすか?」
「…っあのねぇ、」
「荒北さん、きっと待ってますよ。
あの人、俺より勘鋭いんで」
「!!」
その言葉を聞いた瞬間、私の体は動いた。
鋭いって、どういうことだ。黒田くんより鋭いって、もう、それは私の気持ちに気付いてるってことか?
どうしよう。そう思っているはずなのに、焦っているはずなのに、私は外に飛び出た。
彼のいる、ベンチに向かって。
走って、走って。
見えていたベンチに、人影。
間違いない、荒北くんだ。
「…っ荒北、くん!」
「あ?…あ、徒野サンじゃないスカ」
荒北くんの背に向けて声をかけると、振り向いた人物は、やはり荒北くんだった。
うわ、本物、久しぶりに見た。
やばい、緊張する…。
「髪伸びましたネ。あと太ったァ?」
「失礼ね!…ほんのちょっと、よ」
「ハッ、運動しねーからっすヨ。」
グリグリと頭をなでられる。
彼の方が年下なのに、後輩なのに、彼は私を年下のように扱う。私のが年上なんだぞ。
でも、こうやって頭なでられるの、好きなんだよなぁ。
「…荒北くん、久しぶりすぎて、なんか緊張するね」
「ハァ?!な、なに言ってんだヨバァカ!」
「バカって言わないの年上に!…って、なんで顔赤いの?」
「ちょ、マジ黙って。こっち見ないでくださいヨ」
なぜか耳まで真っ赤な荒北くん。
私まで、赤くなってしまう。
…言おうか、今。
今しかないよね、タイミング。
生唾を飲みこみ、意気込む。
いけ、言え、私。
「……あの、さ。荒北くん」
「徒野サァン」
「ぅえ!?なに!?」
私が声を出してすぐ、荒北くんも被せる様に声を発した。
反射的にそっちに返事をしてしまった私…馬鹿野郎。
「ン」
「え?」
「卒業祝いデスヨ」
そう言って差し出されたそれは、彼の大好きなベプシ。しかも、半分飲まれている。
え、のみかけ…!!?
「あ、荒北くん、これ、のm「ちげェヨ!ちゃんとコップに入れて飲んだっつの!!」…あ、そっか」
皆まで言う前に被せて言われた言葉。
なんだ、ちょっと残念。…いや変態か私は。
「……徒野サン」
「ん?」
「俺、アンタと会えてよかったっス」
「!!」
急に告げられたその言葉に、私の体はギュッと固まった。
なに、なんて?
「確かに俺がロードに乗るようになったのは福チャンのおかげだけど、でもアンタが捻くれてる俺にも平等にサポートしてくれたり、ナマイキ言っちまってた時はキレてくれたり、ウゼェ時もあったけど、俺はそれ嬉しかった……つぅかァ」
「……荒北、くん」
「アホで、頑固で、短気だけど、
一生懸命で、真面目で、真っ直ぐなアンタのこと、俺は――」
俺は…?
顔を真っ赤にしながら色々ぶっちゃけ話をしてくれた荒北くんは、その言葉で止まった。
「荒北くん?」
「〜ッあとはァ!そのベプシに書いてあるから!それ見てェ!!」
「え?ベプシに?え?」
「連絡しろヨ!絶対ェ!!」
「あ、う、うん」
「来年は俺たちがインターハイ優勝すっからァ!必ず観にこい!!」
「は、はい」
「会うのが今日で最後なんて、思うんじゃねェゾ!!」
荒北くんはそう最後に吐き捨てて、私の頭をまたグシャリと撫でてから、走って逃げた。
あ、こ、告白…
「…できなかった……。
てか、ベプシに書いてあるって……ん?」
荒北くんの意味深な言葉。
ベプシになにが書いてあるんだろうと不思議に思い、ベプシを真剣に眺めていると、ペットボトルに、なにやら文字のようなものが見えた。
しかし、中の黒い液のせいで、見えない。
「…まさか」
これ、聞いたことがある。
ベプシとかコールのペットボトルに何かを書いて、それは中の液を全部飲み干すことによって見える…てきな。
そう、まさにまさかと思って、普段一気などしない炭酸飲料を一気飲みする。
そして、見えた。
「………!!!」
私の心臓は、爆発しそうになった。
はやく、はやく彼の元に行かなければ。
私は彼が逃げた道を、同じように駆けて、
彼の背中を追った。
ベプシに託して
(荒北くん!私も!私もなの!!)
(ウッセェ!叫びながら走ってくんな!)
―ずっと好きだヨ、棗チャン
*