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□伝わってますとも
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私、徒野棗には好きな人がいる。
彼は…手嶋純太は優しくて、格好よくて、とても良い人。
自転車の練習も凄い頑張っていて、去年のインターハイには出れなかったけれど、次の主将にも選ばれたそうだ。
私はそんな手嶋が大好き。
一年生の頃から大好き。
だからクラス違っても頑張って仲良くなって、三年でクラスが一緒になれたときは本当に嬉しかった。
しかも、席は前後。
こんなにも嬉しい事が続いて、正直怖い。
「徒野、消しゴム貸してくんね?」
「あ、うん!いいよ!」
「サンキュー」
後ろの席、手嶋から小さく声をかけられ、ドキドキしながらも消しゴムを渡す。
少し触れた部分が、熱い。
片思いして、もうすぐ三年になる。
でもこの思いを伝えられるほどの勇気、私には無い。
(テレパシーとかで、伝わらないかなぁ)
「純太」
「おぉ、青八木」
午前の授業が終わり、お昼。
後ろの席の手嶋を呼んだのは、隣のクラスの青八木くん。
この人も最近雰囲気が変わったなぁ…結構女子に人気っぽいし、確かにカッコいいけど、未だ謎に包まれているというか。
そんな青八木くんは今、何も言わずにただジッと手嶋を見つめている。
え、何しているんだろうと横目で青八木くんを私は見つめる。
すると手嶋は、「あぁ」と言って鞄を漁り始める。
そして出したのは、ロードレースのDVDだった。
「わざわざ取りに来させてごめんな。」
手嶋がそういうと、青八木くんは首を振る。
その後また手嶋を見つめ、手嶋はまた「あぁ」と言う。
「今日のメニューはもう出来てるよ。後で渡すわ」
(コクコク…)
「今日は晴れてるし、久しぶりに走れて俺も嬉しいよ」
(そういえば…と言いたげな顔をする)
「あぁ、その事ならマネージャーにもう言ってあるから大丈夫だぜ」
(ニッコリ)
な ん の か い わ だ
横目で見ていた私はその二人のやり取りにただただ頭にハテナを浮かべるだけだった。
なにそれ、テレパシー?以心伝心?
青八木くんはただ動作で自分の意思を示していただけで、手嶋はそれを見事当てていた。
なにこの二人、こわい!
ていうか、仲良いどころの話じゃない!!
「手嶋くんてさぁ、結構人のこと見てるっていうか、観察力あるから、人の気持ちとかすぐ分かってあげられそうだよね」
「えぇ?」
小さく私に言ってきたのは、一緒にお昼を食べていた友達。
どうやら彼女も、彼等のやり取りを見ていたようだった。
「案外、手嶋くん棗の気持ちに気づいてたりしてねぇ」
「え、ま、まじ?」
その言葉を聞いて、顔が熱くなる。
ど、どうしよう…確かに観察力とか、そういうのに長けているなら、私のこの分かりやすいほどの反応は、バレてしまっているはずだ。
……いや、でも、待てよ。
もし彼がそんなにもその部分が優れているというのなら、この直接告白できないヘタレの私の思いを、彼にテレパシーで読み取ってもらえばいいんじゃないか?
私は焦りのあまりか血迷ったことを考え、しかしそれは良い案だとなぜか納得してしまい、それを決行することになった。
そして、放課後。
名前順で日直になっていた私と、手嶋。
なんて今日は運がいいんだろう。
こんなにも早く手嶋と二人っきりになれるなんて。
夕日がさす教室は、まるでドラマのような雰囲気をかもし出していた。
他の生徒は、もう教室にはいない。
今しか、ない。
「あ、あの!手嶋!」
「ん?なに?」
「……っあ、あのさ!」
私は最後にそう叫んでから、ジッと手嶋の顔を見る。
最初はえ、なに?みたいな顔をしていた手嶋も、次第に真面目な顔つきになり、そして「…徒野」と小さく私を呼んだ。
つ、伝わった…?
「そんなに腹減ってるなら言えよ。
ほら、俺のパンあげるから」
「……え、え?あ、うん…ありがとう」
伝達失敗。
なぜか手嶋から頂いたパンをジッと眺める。
メロンパン、私の一番好きなパンだ。おいしそう。
って、いやいやいやいや!
違うだろ!!
「ち、違うの!そうじゃなくて…」
「え、違うのか?」
「ちが…ちゃんと読んで!」
私はまた手嶋を見つめる。
手嶋の困った顔、その目を見つめるだけで、火が噴きそうだ。
私はずっと彼を見つめるが、彼は何も言わない。
私の顔は今きっと赤い。だけど夕日のせいだと手嶋は思ってくれる。
はやく、読んでよ、伝わって。
必死に願うが、彼は何も言わない。
やっぱり、私のは伝わらないのかなぁ…
青八木くんのように、仲良くないから…
「……ふ、ぅ」
「…え!?徒野!?」
「…ご、ごめ…」
気づけば、私はポロリと泣いてしまっていた。
手嶋は急な私の涙に、おろおろとし始める。
私、最低だこれ。
自分が思いを伝えられないからって、手嶋に読ませようとして、伝えようとして。
伝わらないからって、友達の青八木くんに嫉妬してって。
ただの、バカじゃないか。
「ごめん、手嶋…なんでも、ないの」
「徒野…」
「青八木くんが、手嶋にテレパシー?みたいなの、送ってるから…私も、やってみたいなって…」
「あ、あぁ…アレはもう何年もやってるし、もう慣れっていうか…」
「わ、私だって…手嶋とそんぐらい仲良くなりたいよぉ…」
「!」
どさくさに紛れて何を言っているんだ、自分。
しかし一度吐き出してしまった思いは、とまらない。
「私じゃなれない?私のじゃ…伝わらない?
私ヘタレだから、自分からいえないから、手嶋に分かってもらいたくて、だから恥ずかしかったけど、ずっと手嶋のこと見つめて…」
「…徒野、俺は」
「手嶋、わからない?私の気持ち――」
私がそういって、顔を上げたときだった。
私の目に飛び込んできたのは、真っ赤な真っ赤な手嶋の顔。
夕日のせいなんかじゃない。日差しよりはるかに真っ赤な、頬に、耳。
その真っ赤な手嶋から伸びてきた、手。
私の頬を滑り、髪を巻き込み、頭を掴まれる。
そのまま引っ張られ、気づいたときには手嶋の鼓動が聞こえる。
私は、抱きしめられていた。
「てし、ま…」
「ごめん、意地悪した」
「え、え?」
「お前があんまり俺のこと見つめるもんだから、なんか、ずっと見てたくて…さ」
「…は、はぁ!?酷いよ!!」
「ごめんごめん」
ばっと顔を上げると、予想より近かった手嶋の顔。
ふわふわの髪の毛が、私の顔に触れる。
きっと多分、今私達は、お互いに顔真っ赤なんだろうな。
夕日の差す教室、校庭から聞こえる部活動の声。
震える手で、私は手嶋の背中に手を回した。
伝わってますとも
(俺も、おんなじ)
(ずっと好きだった)
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