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□ひっつき虫
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私には、悩みがあった。


私は、高2の春から、入学当初から学校の有名人(きっと良い意味ではない)、荒北靖友と付き合っている。


荒北靖友は、元ヤンだった故かそれとも前からなのか、とても口が悪く目つきも鋭い。その上短気だしぶっきら棒。

でも、根はとても優しくて、面倒見もいいし、自転車を頑張っているし、そこで出来た仲間おことを大切に思っているし、もちろん私のことも大切にしてくれるとても良い彼氏だ。


だがしかし、だ。
私が抱えている悩みとは、そう、そのとても良い彼氏のことであった。



「と、いうことなんだけど、君達に相談にのってもらいたいんですよ」

「荒北の彼女、いや俺達の友人棗の頼みだ、無論聞いてやろう!」

「俺達は別にいいけど、俺たちといるの靖友に見られたら、おめさんが危ないんじゃないかい?」

「靖友は今日福富くんに呼ばれてるから、お昼は来ないし大丈夫」



昼休み。
私は先ほどの授業中にメールで呼びつけた2人と一緒に、屋上でご飯を食べていた。
新開くんとは1年生の時、東堂くんとは2年生の時から仲良くさせていただいている人たちで、靖友のチームメイトでもある。

この悩みは靖友のことだし、一番相談するに適しているのはこの2人であろう。
明日は昼一緒に食べれないとメールが来た昨日、明日しかないと思い、彼等をこの屋上へと収集させたのである。


私が作ってくるお弁当を食べさせるという条件で、のんでもらった。
こんなところ靖友に見られたら、きっと私は打ち首獄門だろうなぁ♥



「で、荒北がどうしたというのだ」

「いやぁ、ね…靖友とはもう付き合って1年にもなるし、長くお付き合いさせていただいているわけですよ。

ただね、ちょっと、靖友くん…私のこと好きすぎやしません?」



私の真剣な声色とは違い、その言葉を聞いた二人は笑う。
た、確かに自惚れというか、なんか自意識過剰的発言かもしれないけど…

けど!本当にそうなんだってば!!



「笑わないでよ!
同じクラスの東堂くんなら分かるでしょ!?靖友の気持ち悪いほどのデレ具合!!」

「あぁ、確かに荒北は棗には甘いな…甘すぎる」

「あまーーーーい!」

「新開くん!まじめに聞いてよ!!」



昔の芸人のモノマネをする新開くんに座りながら蹴りを入れる。
いててと言いつつも、「お、今日は白か」と私のスカート(恐らくその下のパンツ)にバキュンポーズを送る新開くん。
後で靖友に絞めてもらおう。



「だって靖友ってばさ、休み時間になる度私の席に来るしさ、目が合うとにやけてくるし、皆いるのに抱きついてきたり、キスしようとしてきたり、私がちょっと別の男子と話すとめちゃくちゃ不機嫌になるし、威嚇とかするし…」

「なんか、ノロケ聞かされてるみてぇだな」

「あぁ」

「そのせいで、私がクラスからなんて呼ばれてるか知ってる!?
猛獣使い、それに狼の大好物よ!なによそれ!!」



ドンッとコンクリートの床を拳で叩く。
置いてあったお弁当が若干揺れおかずがこぼれそうになり、新開くんが「あぁ!」と気持ち悪い声を上げるが、そんなの知らない。

クラスの男子からそのような名前で呼ばれる理由は、もちろん靖友のそういった行動が影響している。
私と付き合う前なんか照れ屋で、話すときも顔真っ赤で目すら合わせられなかった男が、どうした本当に。

メガ進化でも遂げたのか。



「まぁ落ち着けよ狼のエサ、おめさんが愛されてるってことで良いじゃねぇか。」

「なぁんかふつーに使ってるよね、あたかも当たり前のように」

「猛獣使いがどうたらと男子たちが言っていたのはお前のことだったのだな、わっはっは」

「笑うなっての!」



あぁ、こいつらに相談したのがバカだった…
確かにこいつらからしたらノロケを聞かされているのかもしれないけど、私は真剣に悩んでいるのだ。

靖友のあの行動を止めるには、どうしたらいいんだ。



「で、棗は靖友にそういうのを辞めてもらいたいのか?」

「そう、そうなのよ」

「止めてほしいと素直に言うのが得策だが、あいつはアレで繊細だからな。傷つくかもしれん」

「そこなのよねぇ…だから言うにいえないし」



私達三人はうーんと悩む。
靖友を傷つけるのは嫌だし、かといって猛獣使いとか、これ以上変なあだ名をつけられる事も避けたい。



「いっそ靖友に嫌われるとか」

「む、それはどうやって」

「じゃあ棗、俺と浮気ごっこでもしてみるかい?嫌われるぞ」

「いやそれは嫌われるどころじゃすまない」



私の肩に手を回しながらそう言う新開くんの右手をつねる。
散滅すべし新開。


「こら隼人、そんなことを言って荒北にでも聞かれたらどうする」

「いや大丈夫、靖友は今日来ないって棗が………」

「ん、どうしたはや………と………」

「…え、なに、二人ともどうしたの」



先ほどまで笑っていた新開くん東堂くんが、なぜか私の方を見て固まっている。
え、なに、本当に。てかなんで新開くん震えているの。



「てめェら、ナニ棗にちょっかいだしてんだ……アァ!?」



上から降ってきた声。後ろに引っ張られる腕。
新開くんたちが震えていた理由がわかった。



「人がいねェトコで浮気とか上等じゃねェか、棗チャンヨォ」

「…やす、とも……」



額に青筋を立てた靖友の、登場です。


そのキレた狼はとりあえず2人をにらんだ後、私達が囲んでいたお弁当箱に目を向ける。
「お前、食わせたの?」と静かに聞かれ、震える声で「は、はい」と答えた。

靖友はそれを聞いて、残り少ないおかずが入ったお弁当箱を広い上げ、あろうことかその大きい口のなかに全て収めてしまった。


あああああああああ!!と新開くん東堂くんの悲痛な叫びが屋上に響く中、そのままお弁当を残し、靖友に引っ張られ屋上から私は出た。

ごめんね、新開くん東堂くん。
君等のことは忘れないよ…!!














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