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□いっぱい食べる君が好き
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私には好きな人がいる。

クラスは3年間一緒で、きっと女子の中では仲が良い方なんじゃないかなと思う。


でもきっとあっちは私のこと友達としか思っていないから、この思いを伝えることなんで出来ないと思うけど。



「棗、何か食い物持ってないか?」

「あーはいはい。パンがあるよ」

「お、サンキュー」



今日も今日とて、朝練終わりに食い物に集って来たのは私の好きな人。
新開隼人だ。


彼は顔も整っているし、人当たりが良い性格をしているので、皆からの人気者である。
それに、私の学校では有名な自転車競技部のエーススプリンターというものらしいので、女子からも非常にモテる。


そう、彼はモテるのだ。
他所のクラスの東堂君もモテるけど、新開もモテる。
可愛い子にも、もちろん。


だから私にはきっと見向きもしていないだろうし、私をただの友達とか、ましてや食べ物をくれるクラスメイトとしか思っていないかもしれない。


あぁ、悲しき恋物語。
私の高校3年間の恋は儚く散るのね…。




「それにしても、新開はよく食べるね。
なのに太らない」

「そりゃ、自転車乗ってるからな。」

「私も自転車乗ろうかなぁ、ママチャリしかないけど」

「棗はすぐこけそうだな。」

「なっそんな運動神経悪くないわ!!」



ははと新開は笑う。
その笑顔も、私だけに向けられたらどんなに幸せなんだろう。



「でも、棗も俺に負けずよく食べるだろ」

「え、そうかな」

「あぁ、いつも食べ物持ってるし、よく腹鳴ってるし、食べる時幸せそうな顔して食べてる」

「それ聞くとただのデブにしか思えないんだけど…」



確かに私は食べ物をいつも持ち歩いている。
新開にあげるためもそうだが、自分自身食べることを何よりの幸せとしているのだ。


だから最近太ってきちゃったのかなぁ。
でも、食べることは幸せだし、制限とかしたくないなぁ。


新開は、いっぱい食べる女の子とかどうなのかな。
やっぱり、あんまりご飯食べないスレンダーな女の子がいいのかなぁ。


私がそんなことを考えていると、いつの間に先生が教室にいて、近くにいた新開は自分の席からこちらに向けて、パンありがとうと手を振っていた。


私は手を振りながら、考える。
新開って、どんな子がタイプなんだろう。


















放課後。
先生に用事を頼まれ職員室に行っていた私は、他の生徒より下校時間が遅れてしまっていた。


私は生徒がいなくなった廊下を1人歩き、教室に向かった。


自分のクラスの表札が見え、しまっていた扉を開けようとした。


が、中から男子の話し声が聞こえ、その手を止めた。


小さい小窓から覗くと、別のクラスの東堂くんと荒北くん、福富くん、そして新開がいた。
なんだ、自転車部の人たちか。


今日は先生の会議やらで部活が制限されてしまっているから、暇を持て余しているのかな。
でも、私の鞄教室の中にあるから取りたいなぁ…気まずいけど。



私がどうしようかと考えていると、なにやら会話が楽しそうだったので、ひとまず聞き耳をたてることにした。




「ったく、女どもはなァんでお前みたいなヤツが好きなんだヨ理解できねー」

「なんだ荒北、嫉妬か?
答えは1つ、俺が美形であるからだ!」

「ウッゼ」

「うざくはないな!!」



2人の会話に思わず笑ってしまう。
確かに東堂くんはモテるけど、それはどこかアイドル的存在のモテ方をしているような気がする。


荒北くんも最近ひそかにモテているし、福富くんもクールだから実際モテている。
自転車部は今モテ期なんだろうなぁ。



「ところで隼人もモテているが、最近どうなんだ?好きな女子はできたか?」

「!」

「ん、俺か?そうだなぁ…」



私は思わず息をのんだ。
まさか、東堂くんが新開にそんな話しをふるとは思わなかったのだ。
ていうか、新開って好きな人とかいるの!?
いつもご飯と自転車にしか興味なさそうだったから、全然思わなかった。



「あぁ、好きな女の子はいる」

「!」

「な、本当か!」

「ハァ?お前頭ン中食いモンのことばっかだと思ってたわ」

「失礼だなぁ、靖友。
俺にだって好きな女の子の1人ぐらいいるさ」



私は、固まってしまった。
いたんだ、新開に。好きな人が。



「誰だ!?同じクラスか!?」

「それは内緒だ」

「もったいぶるなよ隼人!
じゃあヒントだ!ヒントをくれ」

「ヒントかぁ…そうだなぁ」




あぁ、もうやめてください東堂くん。
これ以上聞きたくないよ。


もう今扉を開けて、鞄を取りダッシュで家まで帰ってしまおうか…。
それがいい、うんそうしよう。

私はもう一度扉に手をかけた。




「いつも食べ物を持ってて、の割りにすぐ腹鳴っちまう食いしん坊の女の子かな。
あと、俺に食べ物くれる。今日もパンをくれたぞ!」




私は、また固まった。
聞き覚えのあるその言葉、身に覚えのある行動。


私の心臓は、バクバクと高鳴っていた。




「ンダヨ、やっぱ食いモン関係じゃねェか」

「いっぱい食べる子はかわいいだろ」

「なら隼人、はやくその女の子に告白してみてはどうだ?
案外彼女も、お前のことを好きかもしれないぞ?」

「いや、どうだろうな…クラスはずっと一緒だけど、俺のことをただの友達としか思ってない気がするんだ」

「ウジウジしてんじゃねェヨ」




あぁ、もうダメだ。
私ははやくこの誤解を解きたくて、仕方が無かった。



もう動きだした手は、止まらない。



















いっぱい食べる君が好き
(わ、私も好き…!)
(((!!)))
(!?え、な…………お、俺も好きだ)









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