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□嫉妬
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「おい棗!なぜ昨日隼人と一緒にいたのだ!!」


「たまたま会っただけだってば!しつこいなぁ!」


「なっ…俺は心配してるだけだぞ!」


「その心配がうざったいんだっての!デコッパチ!!」




昼休み。
変な目を向ける生徒達を無視し、俺は恋人の棗を全力で追いかけていた。



事の発端は昨日、棗に着信を無視された俺は、気晴らしに寮から近いコンビニに夜に行った。

するとそこには、楽しそうに商品を眺めている俺のチームメイトの新開隼人と、棗がいたのだ。


普段ならグッと抑えられるが、その前に着信を無視されていたのと、最近異様に棗の態度が冷たい上に、男子との仲が良くなったのが相乗し、俺の怒りは爆発してしまった。


恥ずかしい話、これが嫉妬だということは知っている。
しかし俺はこれを止める術を知らない。さすがに棗に俺以外の男と一言も喋るなとは言いたくないのだ。

棗は元々飄々とした性格をしていたし、俺もそんな自由な彼女の性格が好きで、告白をしたのだから。


だが…こればっかりは
俺は我慢できない。




「昨日だけではない。最近やたら福や荒北とも仲が良いのは何故だ!クラスの男子とも!!
なのに何故俺にだけは冷たいのだ!!」


「そんな事ない!皆平等に仲が良いんだから良いじゃない!!」


「良くない!少しは俺の気持ちも―…」


「尽八のっ…!!」




バッと振り返った棗。
俺はびっくりして、距離をつめることなくその足を止めてしまった。





「尽八の、そういう俺ばっかなとこ、大ッ嫌い…!!!」































**********





「ああああ…」




昼休みも終わり、教室に戻った俺は机に突っ伏していた。
授業は珍しいことに自習。担当の教師がいないからだった。

俺のクラスの奴はこっそり教室の外に出たり、教室内でガヤガヤと騒いでいたりしていた。


俺の元にも女子生徒が何人も来てくれたが、俺は話す気になれず、すまんとだけ言って顔を上げることはなかった。


このままでは棗に嫌われてしまう…
やっと1年の頃から恋焦がれていた棗と恋人になれたんだ。嫌われることだけは嫌だ。




(ここは…荒北にでも相談するか。)



そうとなれば今だと思い席を立つが、荒北の席は別の女子生徒が座っていた。
む…荒北はどこにいったのだ?


俺は荒北の席に座っている女子生徒に聞くことにした。




「すまない、荒北はどこに行ったか知らないか?」


「あっ、東堂くん…!
荒北くんなら、昼休み終わる前に徒野さんに話しかけているのを見たけど…」


「な、なに!?徒野!?」




徒野、間違いない棗だ。
この学年に徒野という苗字は棗しかいないし、何より荒北が話せる女子など彼女ぐらいだ。


いや、まてそんなのはどうだっていい。
何故棗と荒北が2人で…てゆうか荒北、なに話しかけているんだずるいぞ!!



「どこに行ったかわかるか?」


「えっと…空き教室に行ってた気がするなぁ」


「すまない、ありがとう!!」



俺は教室を飛び出し、2人がいるであろう空き教室に向かった。



























********






「泣きやんだァ?徒野チャン」


「うん、もうへーき。ごめんね荒北」


「イーヨ別に」




尽八と別れた後、私は涙でぐしゃぐしゃになった顔を、あまり人が来ない水道場で洗っていた。


するとそこで荒北にたまたま会い、現在2人でサボる形になっている。


正直荒北とは気が合うし、とても楽だ。




「ンで、東堂とナニがあったワケェ?」


「…んー多分、私が昨日新開とコンビニにいたからだと思う。
いや、それだけじゃないかな…最近他の男子とかと、話す回数が増えたからだと思う。」


「ハァ?それでアイツがキレたってワケねェ」


「うん…多分。
荒北とか自転車部の人ならまだ許せてたとは思うんだけどねぇ、尽八もあぁ見えて嫉妬深いから…」


「ハッ、ンなの東堂だけじゃねーダロ」


「え?」




全てを見透かしたような荒北の目。
野生の勘が鋭いというか、こういうところは勝てない。




「徒野チャンが最近男子とよく話すのはァ、アイツに嫉妬させたいからじゃナァイノ?」


「な―……」


「図星、ってツラしてんネ。
似たモンどーしっつぅかヨォ、メンドクセーカップル」




図星だった。
私あまり固執しない性格だったが、尽八に対してだけは違った。


だって、私といても女子に優しくするし、てゆうか私と扱い同じじゃん!!
それにメールもしてるし、差し入れとかもおいしそーなかわいいお菓子とかもらってるし!!


…って考えたら、どんどん自分の感情が変わっていって、無意識に嫉妬させようと考えてる自分がでてきて…


正直、自分でもどうすればいいのかわからない。



「私、どうすればいいのかわからない。
多分、今までで一番好きな人なの、尽八が。でも、尽八はすごい女子にモテるし、尽八もそれを受け入れて楽しそうでしょ。
最初は平気だったんだけど、段々自分が自分じゃないみたいに余裕なくなってきて…私も尽八に嫉妬させたいなって思うようになって…」


「ドンドン墓穴掘ってったワケネ」


「うぅ…」


「テェカ、徒野チャンも東堂も考えすぎなんだヨ!もちっとお互いで話しあえば良いコトだろォ!?」


「そ、そうだけど…」


「まァ、今のハナシで、東堂には徒野チャンの気持ち伝わったンじゃナァイ?

な、東堂ヨォ」


「え―?」





そう言って荒北が教室の扉を開けると、尽八が立っていた。




「え、な、なんで…どこから…」


「荒北の、泣き止んだぁ?から…」


「あ、全部なのね、全部聞いてたのね」




私の顔に熱が集まっていくのがわかる。
そして気づけば荒北がいなくなっていた。なぜ2人っきりにさせた荒北。




「棗、すまなかった」


「え…?」


「俺はお前の言うとおり、自分がされたことばかり考えていた。
俺はお前は、嫉妬もなにもしない者だと考えていたんだ。
だから何も考えず、付き合う前と変わらず他の女子に同じ態度で接してしまったんだ。」


「…面倒くさいと、思った?私のこと
嫉妬深い奴だって…」



「いや、むしろ嬉しい」




聞き返す前に、尽八は私の腕を引き、尽八の腕の中にいた。


2人分の心音が、響く。




「徒野、不甲斐無い俺を許してくれ。
お前の気持ちも考えず、自分ばかり突っ走ってしまった俺を。

お前が望むのなら、俺は他の女子とは話さん。俺はお前に嫌われることが、一番怖い」


「…ちょ、それはだめ、ちがう。
私が尽八の行動制御するなんて、絶対嫌だ。

確かに女子と話しまくってる尽八はムカつくけど、でもそれもひっくるめて、私は尽八が好きだ」


「棗…」


「私こそ、ごめん。
自分ばっか考えて、わざと尽八を傷つけるようなことして…」


「良いんだ、俺にだってお前を縛る権利はない」


「じゃあ、約束する」


「む?」



私は尽八の耳に自分の顔を近づけ、言葉を発した。



「どんな男子と話しても、尽八を一番特別扱いするし、尽八以外を好きにならないって」



尽八の耳が、真っ赤に染まる。




「…ならば俺も約束しよう。
俺の特別はお前だし、俺の一番は永遠に徒野棗であると。」





お互いの体温が、上昇した気がした。































嫉妬
(東堂がイヤんなったら俺のトコきなネ)
(俺のところでもいいぞ、棗)
(え…)
(隼人!荒北!棗に近づくな!!)









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