10万打記念企画
□俺だって
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かかあ天下ってやつを知ってるか?
簡単にいうと、夫より妻が強くて、実権を握ってるみてぇな意味だ。カップルに例えれば、彼氏が彼女の尻に敷かれてる…みたいな。
まあ生憎俺の周りにはそんなカップルいねえし、俺の母ちゃん父ちゃんもそんな感じではない。
そう、俺の周り…は。
「おいこら雪成」
「どわっ!」
背中に衝撃を感じ、俺は廊下にぶっ倒れた。
痛ぇ、なんだこれは。俺は今どうなったんだ。
…いや、この声は。
「っにすんだよ棗!!」
「おはよ〜」
俺の剣幕すらこいつには効かないのか、ニコニコ微笑みながら俺の彼女―徒野棗は後ろに立っていた。
そう、俺の彼女は
かかあ天下の1人である。
*******
「これはマズイだろ…マジで」
「はは、徒野さんも随分ユキのことが好きなんだね」
「お前この行動を好きとかいうか…?」
部活が終わって、俺と塔一郎は部室で談話していた。話題はもっぱら、俺と棗の相談事だけど。
塔一郎は練習が終わったというのに筋トレをしながら俺の話を聞いている。アブアブ言ってっから聞いてねぇのかと思ったが、案外耳に入ってるらしい。話を聞いた塔一郎は楽しそうに笑っていた。
「うーんそうだな…もしユキが徒野さんのその上下関係のようなものが嫌だというなら、一度話し合ってみるというのはどうだい?」
「話し合い…?」
「徒野さんは多分ユキのことを好きだからいじっているのだと思うけど、嫌だということをハッキリと伝えれば、彼女はきっとやめると思うよ」
爽やかな汗を流しながら、塔一郎はそう言った。はあ…話し合いで俺達の立場が変わるようならとっくにやっている。
なにか、もっと効果的なものはねぇのか?
「あ、もしその話し合いで徒野さんがユキに優しくなったからって、ユキが徒野さんを虐めるなんてことをするのはダメだよ」
「は?…まぁ万が一そうゆー風になったとしてもだ、なんでダメなんだよ」
「決まってるじゃないか。そういう子ほど虐められたりするとすぐに折れちゃうからね。慣れてないから」
「!!」
まるで頭に雷が落ちたような衝撃が走った。
そうだ、なんで俺は気付かなかったんだろう。
そんな手があったと、どうして!!
「はは…ははは!!」
「ゆ、ユキ?」
「サンキュ、塔一郎。
俺、天下取ってくるわ」
「え?―ちょ、ユキ!!」
塔一郎の制止も聞かず、俺は部室から飛び出した。携帯ですばやくあいつにメールをし、俺は吊り上がる口角を押さえて走った。
「見てろ棗…!!かかあ天下の時代は終わりだ!下克上だ!!」
―今から俺の部屋に来い。
初めて送った、命令口調のメール。
あぁ、最高の気分だ!!
俺の足取りは、更に軽くなった。
**********
「雪成、開けて」
トントンと扉をノックする音が聞こえ、俺は部屋の扉を開けた。そこにいたのはスウェット姿の棗。オイオイ今から戦争だっつーのに、そんな格好でいいワケ?その姿を見た俺の口角はまたニヤリと上がった。
そんな俺を見て、不信に思ったのか、棗は眉を顰める。
「何ニヤケてんのよ。
てかこんな時間に私を呼び出すなんて、どういうつもり?しかも、随分と偉そうじゃない」
「ハッ、お前もズイブンと偉そうだな、棗」
「…口の利き方がなってないんじゃない?雪成くん」
ツツツ…と棗が人差し指で俺の頬をなぞる。いつもならそれだけでコイツのペースにもっていかれてしまう俺だが、今日は違う。
なぜなら俺は今、主君への模倣を企てようとする、まさに明智光秀であるからだ。
「…なによ、その顔。」
「棗、もうお前の時代は終わりだぜ」
「は?何言って―…ッ!!」
おもしろいほど眉間に皺を寄せた棗。俺はそんな彼女の腕を引っ張り、自分の唇を彼女のに押し付けた。
「ちょ、ッン…ゆき、」
「っはぁ…」
どんどんと深くなる口付け。
そう、俺の計画とはまさしく、彼女とのコウイでマウントを取る事だった。
棗は普段の生活はもちろん、夜の営み?っつーのも自分が主導権を握らなければすまないという女だった。何度も俺が主導権を握り返そうとしたが、今までは先ほどのようにすぐ彼女のペースに持ってかれてしまっていた。
だから俺は考えた。
今回は…いや、これからは俺がこいつをこっちのペースにもってきちまえば、きっとこいつは俺に屈するだろうと。
このコウイでいじめちまえば、こいつも俺を嘗めることなんてねぇだろうとな。
「やだ、ぁ…ちょっと!雪成!!」
「ッセ、黙ってろ」
酸欠が近いのだろうか、俺の肩をドンドンと殴る棗を無視し、俺は棗の服をまくしあげた。さすがに棗も危機感を感じたのだろう。暴れ始めるが、俺はそれを押さえ付けた。
いける、このままならいける!
こいつを天下から引きずり落とせる!!
「ッ棗…」
「…な、に…?」
「今日は、俺の言うとおりにしろよ」
とろんとした目にハッキリと自分を映しそう囁けば、棗は目を見開いた。
「…ゃ、だ…ゆきっ…」
懇願するように縋り付く棗。
俺はそんなのに揺らぐはずもなく、棗を自分のベットへと押し倒した
さぁ、下剋上の始まりだ。
下剋上
次の日、腰を痛めた彼女に右ストレートをくらい、
吹っ飛んだのは言うまでもない
*