10万打記念企画

□ヤキモチの答え
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「それで、棗は誰が好きなの?」


その言葉に、俺は持っていたペットボトルをぐしゃぐしゃに握り締めた。


体育の時間。今日は珍しく男女混合での授業だった。俺の班は先程の試合で勝利を決め、次の対戦相手を決める試合をボーッと眺めていた。

今日は暑い。さっきからいくらスポーツ飲料を飲んでいても喉は渇く一方だった。

ちらりと女子の方を見れば、楽しそうにテニスをしていた。あぁここは天国だなと思いながら暫く眺めていると、キャーッと楽しそうな声が聞こえそこに視線を移した。

そこにいたのは数名の女子。その中には徒野棗という俺の…ほんのちょっと気になっている子もいた。

なんの話をしているんだろうと少し聞き耳を立てていると、聞こえたのは恋話。しかも……徒野さんの好きな人ときたもんだ。

そして、冒頭に戻る。


「オイ新開、その鬼みてェな顔隠せヨ」

「……。」


靖友に言われ、自分がイライラしているということに気付いた。
なんだよ、好きな人の話してんのか?聞きたくねえけど…でも耳を傾けずにもいられねえ。イライラするけど。

俺はくしゃりと自分の頭をかきむしった。


俺が彼女を気になり……いや、好きになったのは、入学式。友達と楽しそうに笑う彼女の笑顔を見て、太陽みたいだと思った。多分一目惚れだったんだと思う。

それからこっそり彼女のことを遠目から見たり、楽しそうに友達と笑う彼女を見て俺も笑ったり…ストーカー紛いだなと思いつつも、俺には告白する勇気もなく、ただ彼女を見てきた。

だけど、この気持ちは、彼女を好きな気持ちは嘘じゃないんだ。

だからもし本当に好きな奴がいるなら、どうか、どうかうまくいかないでくれ。

卑怯で最低で、勇気もない俺だけど……

神様、好きになるくらいは許してください。


「……ごめん、応援できそうにねえや」


俺は空に向かって、そう小さく呟いた。



******



「おはよさん。
寝癖、ついてるぜ。」


次の日。
どうゆうことだか神様は、勇気のない俺にチャンスをくれた。

一人廊下を歩く徒野さんの髪の毛が、1ヶ所ピョンと可愛く跳ねていたのだ。思わず彼女を引き止めた俺は、初めて挨拶と、言葉を交わすことができた。


「……えへへ、ナイショ!」


君はそこを押さえながらにこりと笑うと、そう言った。
その可愛さ、反則だって。




******



それからは毎日がふわふわしていた。
部活でタイムは自己ベストを更新したし、小テストでは中々点数がよかった。毎日、幸せだ。

―徒野さんの好きな奴に、好きな子がいたらいいのに。

俺の中の悪魔がそう囁く。
そう、そんなことがあれば、俺はもっと幸せになれる。

でも、彼女は。


「いけないことか?」

―彼女の幸せはどうなる

「だよな」

―泣いてほしくない。

「わかってるさ。」


これは、独り言だ。




*******



「徒野さん」


お昼休み。
俺はまた君を廊下で引き止めた。
俺の真剣な顔に、「新開くん…」と俺の名前を呼んだ彼女の顔は、少し不安そうだ。


「話があるんだ。
今日の放課後4時10分、この教室で」


近くの教室を指させば、君はゆっくりと頷く。


流れるように、時間が過ぎていく。
俺はその時間の中で、ずっと考えていた。


嫌なんだ、絶対。
俺の中のヤキモチがもがいて、楽にさせてくれねえ。
話したくて、探したくて、おめさんを独り占めしたくて。


「きりーつ、きおつけ、れい」


号令が終わり、俺は一目散に教室を出る。時刻は4時08分、もう彼女はいるだろうか。

もし、もしもさ。
俺とおめさんが付き合えたら、
俺はおめさんを、徒野さんを、棗を

毎日笑わせてみせるぜ。


「徒野さん!」


教室に辿り着くと、彼女はもういた。
その頬は少し、赤い。

今回はこいつは、必要ないか。
絶対に仕留める合図のバキュンポーズを、俺はこのときだけ封印した。


なあ、いくぜ





















ヤキモチの答え
俺じゃダメかい?






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