10万打記念企画

□不器用が伝えます
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「やーすとも!」


俺には、付き合って半年になる彼女がいる。

高校入学当初荒れていた俺に対し、周りと同様に接してくれた唯一のクラスメイトだった女で、ウザイと思っていた反面、俺はきっとそのときから惚れていたんだと思う。

そして半年前、ダメ元で告白してみたところ、なんと彼女からまさかのOKがきたもんだ。そん時は死んでもいいと思った。いや、せっかく付き合えたんだ、死にたくはなかったが。

そうして、半年が経った今。
デケェ喧嘩もすることなく順調にきた俺らだが…


「ねぇ、靖友、今日さ―」

「っせェな、寄んな」


俺はそんな大好きな彼女に
こんな冷たい態度しかできなくなっていた。






*****





「うむ、飽きられるのがオチだな!」


東堂の意気揚々とした声が、部室内に響いた。



「…東堂ォ、てめェ最後に言い残したいことはあるゥ?」

「や、やめろ荒北!その顔でこっちに近づくな!」

「いやぁ、今のは尽八が悪いな」

「隼人も食べてないで助けてくれ!!フクも!!」


部活終わり。
部室でグダッていた俺らに突如降ってきた話題は、東堂の「最近の荒北は徒野さんに冷たくないか?」であった。

まるで今の心の中を見透かされたような図星の質問に俺が固まると、東堂はやはりかといったような顔をし、先ほどのクソみてェな発言をかましてきた。

俺がゆっくりと立ち上がり近づくと、何が怖いのか(恐らく俺の顔)、叫びながら少し離れたところでパワーバーを食べる新開と福チャンに助けを求めた。

しかし悲しきかな、その助けも来ず、喧嘩はするなと福チャンに言われているので俺はカチューシャだけ叩き割った。東堂の悲鳴がもう一度響くが、気にしない。

で、だ。


「飽きられるってなんだヨ。殺すゾ」

「物騒なことを言うな!
…っ大体なぜ分からんのだ。普通あんな態度をされれば誰しも嫌になるだろう!」

「俺たちは勿論、きっと棗ちゃんも靖友が素直になれない人間だってのはわかってるけど、それでも辛くなるときはあると思うぜ」

「…。」


俺は自分の拳を強く握り締めた。
こいつらの言っていることはすげェわかる。その通りだ。俺がいくら不器用な人間だっつっても、だからといって棗にあんな態度して良いワケねェンだ。

そうだ、俺は棗の優しさに甘えて、そんで自分のこういうところ直そうとしねェで、いつまでも…。


「あ、いたいた先輩達」

「む、真波!帰ったのではなかったのか?」


俺が1人悶々と頭を抱えていると、部室の扉を開けたのは先ほど他の奴らと帰ったはずの不思議チャンこと真波山岳だった。


「いやぁちょっと荒北さんに言ったほうがいいかなぁって思って」

「ハァ?」

「ん、そいつぁどういうことだ?」


真波は一直線に俺のとこにきたと思えば、そう言った。俺と他の3人も頭にハテナを浮かべる。福チャンなんかさっきから日誌を書くべく動かしていた手も止めてしまっている。


「荒北さんの彼女さんて、ここの学校の近くに住んでますよね?それで髪はこんぐらいで、目がパッチリしてて」

「…オイ、なんで棗が出てくんだヨ。」


その名前に俺は思わず荒々しく立ち上がる。他の3人も顔を顰めた。
真波は相変わらずヘラヘラした顔で、またも話を続ける。


「学校の前の坂下ったところに公園があるんですけど、そこに荒北さんの彼女さんらしき人がいたんですよ。ブランコに乗ってました。」

「…ハァ?」

「なんか、泣いてたような気がして。
何かあったのかな〜って、荒北さんに伝えなきゃと思って来たんですけど、どうしたんですか?」

「!!」


なんだ、それ。なんで棗がこんな時間に公園に…しかも、泣いてるんだ?


俺の、せいか―?


「荒北」

「福チャン…」


真波の言葉に呆然としてしまった俺に声をかけたのは、今までずっと黙っていた福チャンだった。その顔は相変わらず鉄仮面のごとく表情1つ変わっていない。しかしその口は、確かに動いた。


「話さなければ、伝わらないことはある」

「!」

「お前の思っていることを話さなければ、何も変わらない」

「……。」


正直、驚いた。まさか福チャンからこんな言葉を聞けるとは。
だけど、その言葉は俺の心に染み渡り、次第に心が温かくなる。

さすが、福チャンだ。


俺はひとつ頷いて、部室から飛び出した。








*****






「…っ棗!!」


坂を思い切り下り、公園に着いた俺は、ビアンキにまたがりながらブランコに座る後姿の名前を叫んだ。

するとそいつは振り返る。が、俺はその顔に、赤く腫れ上がった目元を見て息を呑んだ。

ビアンキから少々荒く降り、どうしてここにいるんだといった顔をした彼女に近づく。

彼女が座るブランコの鎖を掴む事ができるほどの位置まで近づくと、ようやく彼女は口を動かした。


「…やす、とも」

「…棗」


弱々しく俺の名前を呼ぶ棗を抱きしめる。俺から彼女を抱きしめるのはいつ振りだろうか、棗も同じことを思ったのか、びくっと肩を震わせた。


「…ッおめェはなにしてんだヨこんな時間に!危ねェだろ!!」

「っご、ごめんなさ…」

「…っ悪ィ、違ェんだ。聞きてェのはそっちじゃなくて」

「?」

「……どうしたんだヨ、なんで、泣いてンの」


俺が彼女の目元をなぞりがら聞くと、その大きな瞳がまた揺れた。


「…私、ね。靖友のこと、結構知ってるつもり、だったの」

「ウン」

「だけど、ね…最近、友達にね、いくらなんでも靖友が冷たいって、言われて…。
靖友、他に好きな人いるんじゃないかって、言われて…」

「!」

「そんなことないって、わかって、るのに…すごく、不安、でっ…」

「―…ッバカ野郎!」


俺はきつく棗を抱きしめた。彼女の肩はこんなに小さかったか、背はこんなにも差があったか、こんなにも冷たい体だったか。

久々に感じる感覚と共に、俺はこんなにも棗に冷たくしていたのかと思い知らされた。

好きな女を、なんで泣かせてるンだ、俺。


「棗、悪ィ」

「靖友…」

「俺はオメェに甘えてたんだ。俺が冷たくしても笑顔なお前に」

「…でも、素直になれない靖友のことも、私は知ってるし、そこも好きだよ」

「でも、俺ァ…」

「だって、私が泣いてたらすぐこうやって素っ飛んできてくれるんだもん。
靖友が優しいことなんて、知ってるよ。」

「…。」


尚も笑顔でそう言ってくれる棗が、俺は本当に愛おしくなった。

あぁ、今日だけでも、俺は
言わなければならない。
伝えなければならない。



「棗」

「ん?」




彼女に、愛をこめて
















不器用が伝えます
俺が伝えられるのは
これで精一杯









*

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