one2

□10
1ページ/1ページ








少し肌寒い風が頬を掠める。
もう季節は冬を迎えようとしている。

だけど、俺の顔は赤く、心臓もバクバクと高鳴っていた。

目の前には、顔を俯かせる棗。
俺は自分の手の中にあるものを握り締めた。


「…どういう、事だヨ」


棗は俺が掲げたままの携帯を奪い取ろうとも、また見ようともしなかった。
受信ボックスの新着メール、差出人は俺の知らない人間、俺の知らない男。

俺の知らない、過去の棗の男。

棗を傷つけた、芝田という男。

なんでその男と、棗が連絡をとっているんだ。

怒りと困惑と不安が、俺の頭をグルグルと支配していた。


「何か言えヨ」

「…。」

「オイ」

「……―やす」

「なんで!こんな奴なんかと連絡取ってんだヨ!!」


俺が吠えると、棗は顔を上げた。
何でお前がそんな目で俺を見てンだヨ。何で肩震えてンだヨ。

俺の頭の中は、ただ怒りだけの感情になり、さらに頭に血が昇っていくのがわかった。


「…と、うきょうに」

「ア?」

「東京に、行ったら…明早に、いて…」

「!」


震える声で、たどたどしく言葉をつなぐ棗。
明早に、いた…?

それはつまり、あいつも同じ大学を受けるかもしれねェって、ことか…?


「棗、明早には行くな」

「え…」

「もしあいつも明早に行くってなったらどーすんだヨ。また付き纏われるぞ。」

「そんなことないよ、だって本当に来るかわからないし、もし来たとしても大丈夫だよ!」

「大丈夫なんて確証どこにあんだヨ!」

「っい…!」


棗の肩を思い切り掴むと、棗は苦しそうな声をあげた。


「ただでさえお前は流されやしィんだぞ!現に今だって相手からメール来てンじゃねェか!」

「そ、れは…勝手にメアド交換させられて…」

「っ教えたのかヨ…!!」

「!」


しまったというような顔をした棗。元々あったわけではなく、新たに教えたということだった。ふざけんな。早速そういう事態に陥ってンじゃねェかヨ。


「ごめん、靖友、本当にそんなつもりじゃ…」

「…もう会うな。連絡もとるな。」

「靖友…」

「お前どうかしてるぜ、過去に自分のこと散々傷つけた人間と連絡とるなんてヨ。
…それか、許したのか?」

「…。」


棗は何も言わない。
俺は棗から手を離し、そこから去った。


あぁ、腹が立つ、頭がおかしくなりそうだ。

棗がこいつと連絡をとっていたということも、棗が連絡先を交換することを許さなかったということも、このことを隠していたということも。




棗が、あいつのことをまた好きになってしまうのではないかと、焦っている自分も。






「…靖友、私は―」





棗が何かを言っていたが、俺は聞き耳もたず、歩みを止めることはなかった。





*

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ