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お母さんによく、あんたは嘘をついているとき分かりやすいと言われたことがあった。
それはお母さんのお気に入りの皿を割った時だとか、食べちゃいけないお客様用のケーキを食べてしまった時だとか…
そう、隠し事をしているとき、私はすぐにお母さんにバレていたのだ。なぜかは、わからないが。
でもそれはお母さんだけの話で、他人にはきっと分からない"癖"でもあるんだろうなと思っていた。
思っていた、のに。
「なァ棗チャン」
「は、はい……」
どうして今私は、
愛しの彼氏に壁際へと追い詰められているんだろう。
こうなるまでの経緯はこうだ。
お昼休み、私の友達二人が委員会の用事でいないということで、何故か自転車部と一緒に昼食をとるということになってしまった。
そのときに上がった話題は、やはり先日の3人で行った大学見学のこと。興味津々に話を聞く東堂くんに、嬉しそうに自転車競技部のことを話す新開くんと寿一くん。
私は、といえば。
先程まで笑ったりしゃべったりで忙しかったのに、ぱたりと話に入るのをやめてしまった。
新開くんにも寿一くんにも東堂くんにも友達二人にも……ましてや、靖友にも言っていないことを口が滑って言ってしまうという不安があったからだ。
しかしそんな私を変に思ったのか、さすがは野獣荒北、見事見抜いてまだ最後の卵焼きを食べていない私の腕を引っ張って行ってしまったのだ。
そして、現在に至る。
「お前、何か隠してるダロ」
「え、え?な、なにが?」
「しらばっくれんじゃねェヨ」
バンッと顔の横にもう片方の手を叩きつけた靖友。くそ怖い。だからと言って私は言えるわけなかったのだ。
私が隠していることは、そう。先日のオープンキャンパスで再会した元彼、芝田のことだった。確かに再会しただけで靖友がどういう反応を示すかなんてわからないが、最近の彼の心配性や嫉妬を見ている限り、タダではすまないだろう。
「聞いてンのかヨ」
「ヒッ……!」
靖友の歯が私の首筋に当てられる。以前噛まれた時の痛さが思い出されて、私は震え上がった。
最悪だ、なぜこんな恐喝紛いなことを彼氏にされなきゃならんのだ―!
「隠し事なんてやめた方が身のためだヨ。お前さっきから何か隠してるデスってニオイプンプンさせてっからナァ」
「―!」
しまった、そうだ。こいつにはニオイを嗅ぐという特殊能力があったんだ。
そんな私の焦りを感じ取ったのか、当てていただけの歯に力が入る。うっと唸れば、靖友は笑う。
言わなければ噛み殺される。そんな一抹の不安がよぎるが、でも言っても殺される気がした。
どうしよう、どうすれば―
そんな時、私の携帯が鳴った。
だ、誰だ?
「…やす、とも」
「ア?」
「け、携帯鳴ってるの…」
「アァ、ソウダネ」
「もっかしたら、友達かも」
「知らねェヨ」
「お、お願い…次の授業のことかもしれないから、出させて……」
「……チッ」
必死に懇願すれば、靖友は舌打ちをしつつも離れてくれた。が、壁ドンはしたまま。
鋭い視線を受けながらも、恐る恐る私は携帯を開いた。このまま彼女達に助けを求めるしかない。そう微かな希望を持って。
だが、そんな私の希望は、打ち砕かれたのだ。
「……っ!」
受信ボックスに並ぶメールの中、最新のメッセージに出された名前は、友人のでも、ましてやあの自転車部3人のものでもなかった。
目を見開いて固まる私を至近距離にいた靖友はやはりおかしいと思ったのか、あろうことに携帯を奪い取った。
「ちょ、靖友!!」
「……」
私の制止も虚しく、恐らく名前を見た靖友の瞳は大きく見開かれた。
あぁ、どうして。
送られてきたメールは、芝田友也……つまり、私の元彼からだった。
「……イツ」
「え…?」
「誰だヨ、コイツ」
靖友に元彼の名前は出したことはない。しかし東京に行ってから何かを隠している私の行動と、メールの差出人を見て固まった私を見て、勘の鋭い彼は分かってしまったのだろう。
私は息を少し吸って、震える声で、発した。
「……私の、元彼。」
靖友の目が
悲しく歪んだ。
*