one more time
□06
1ページ/1ページ
「はぁ…」
誰もいない図書室に、私のため息がやけに響いた。
あれからまともに靖友と話ができなくなって、数日経った。
たかが大学が違うだけというのに、お互いの勘違いによりなぜか出来てしまった溝に、これまたきっとお互いどうやって修復したらよいか分からず、混乱している状況だ。
最近はなにかとお互い理由をつけてお昼を一緒に食べれていないし、友人達にも心配される始末だ。
さて、どうしたものか。
「はぁ…」
「ため息か」
「あ……寿一くん…」
私が本日何度目かのでかいため息をつくと、頭上から声が聞こえた。ちらりと横を見れば、立っていたのは寿一くん。
金髪が今日もお綺麗だね、君は。
「勉強ははかどっているか」
「ん…そう見える?」
「いや、全くだな。」
彼は私の前に座り、そう言う。私はただ苦笑いで返すことしかできなかった。
勉強も身につかないし、いつも心ここにあらずって顔してるよといわれる。そういえば東堂くんにも心配されたな、この間。
「新開が」
「?」
「心配していた。
お前たち両者ともに、元気がないと」
寿一くんの言葉に、私はペンを握る手に力が入った。
確かに、同じクラスだから余計に分かるが、最近靖友元気ないなと思う。
勉強の疲れかとも思ったが、私も似たような症状なので、きっと同じ気持ちなんだなぁと思う。
「ごめんね、心配かけて」
「いや、大丈夫だ。
それより、荒北は洋南を受けるようだな。」
「…うん、そうなの」
真っ直ぐな寿一くんの質問に、私は俯き気味で応えた。
私達とは違う大学に、荒北は行くみたいだよ、寿一くん。
「それがお前たちを今こんな状況にさせている原因なのか」
「…多分。お互いが勘違いして、そのせいで出来ちゃった溝をどうしようかーって考えているうちに、ずるずる気まずさが引き延ばされちゃったカンジかな」
なんだか自分で言っていて、すごい依存しているんじゃないかと思ってきた。
こんな人間だったか、私。
「なら、話は簡単だ」
「?」
「話合えばいいことだろう」
「…。」
寿一くんの言葉に、私はまぁまぁといった感じで頷いた。
わかっている、こんなこと話し合えばすむはずなんだ。
だけど、だけど何を話しあえばいいのかわからないんだ。
だって、私は志望校を変えたいとは思わない。きっとそれは靖友もそうだ。
じゃあ、何を話しあえば。
「俺たちがあと共にいられる時間は、数ヶ月だ」
「!!」
寿一くんの言葉が、痛いほど私を貫いた。
数ヶ月。その期間がどれほど短いか、どれほどあっという間なのか、私は、皆は知っている。
卒業までなんて、あっという間なんだ。
「こんなことのせいで、時間を無駄にしてどうする」
ぶっきらぼうな言葉だけれど、それでもその中に寿一くんらしい優しさがこめられているのだろう。
私は、コクリと頷いた。
「そうだよね。ちゃんと話さなきゃね。」
勝手に靖友が私と同じ大学に来ると思ってしまったこと。そのせいで何だか変な気持ちにさせてしまったこと。謝らなければならない。
そして、怖がってしまったことも。
気持ちが、変わってしまうんじゃないかということに。
「寿一くん」
「なんだ」
「ありがとう」
「…気にするな」
私が微笑むと、寿一くんも微笑んだ。
会わなきゃ、靖友に。
*