one more time
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「まじ!?」
「え!じゃあ違ったの!?」
「ちょっと…声でかい……」
翌日。
またも職員室に用があるといって靖友がお昼休みいなくなったので、私は友人たちと昼食をとっていた。
昨日のドラマはあーだこーだの話をしている友人たちだったが、その中に私がふと昨日の話を投下してみると、彼女たちは箸を握りしめながらその話題に突っ込んできた。
そして、冒頭に戻る。
「じゃ、じゃああんたら別々の大学ってこと?」
「そうなるね」
「そうなるねってあんた……ちなみにどこの大学?」
「洋南」
「「洋南!?」」
またもや友人たちは叫ぶ。
そう、洋南大学とはこれまた名の知れた名門大学であり、まあまあ偏差値も高い。彼女達はまじかよ!と口々にするが、二人が驚いているのはあの荒北かあんな頭良いとこ!?とかそこではないのだ。
「洋南って…静岡じゃない……」
そう、洋南大学は、静岡にキャンパスがあるのだ。
私は東京、彼ら静岡。
これで、決まった。
私達は、遠距離決定なのだ。
「それで、アンタは?」
「ん?」
「いや、ん?じゃなくて…
荒北くんと遠距離嫌なんでしょ?大学変えるの?」
「…まさか、変えないよ。」
私が首を横に振ると、ますます2人は難しい顔をした。
遠距離が平気なわけない、不安じゃないわけない。
でも、だからといって、志望校を変えることなんて、考えられなかった。
だって、ほんの数週間前の話だが、それなりに短い時間の中で資料だって今までになく漁り読み、教育学部について、ほんの一部分にすぎないが、色々学んだのだ。
少しづつ、やりたいことが掴めてきていたんだ。
だから、やめることなんて、出来ない。
「でも荒北くんの口ぶりからするとさぁ、荒北くんも棗は自分と同じ大学だーって、思ってたんだね。」
「確かに。だから棗に自分の大学の話しなかったのかも。」
「まったく、お互いに思い込み激しすぎ!相手はエスパーじゃないんだよ?」
「ごもっともでげす…」
ぐう正論だ。私は何も言えずただ頷いた。
そう、靖友もきっと、私が自分と同じ大学、つまり洋南に来るはずだとすっかり思っていたそうで。
だってあのときの靖友、コイツあり得ねェって顔してたもんなぁ。
「しかもお互いに目指しているところは名門校ときた」
「そうね、これからが大変だ」
「…え?なにが?」
私が2人のセリフにポカンとしていると、2人はバカたれが!とキレてきた。怒る若者。
「受験勉強、忘れたの?」
「…あ、」
その単語を聞き、そういえばと思い出す。
瞬間、血の気がサッと引いた。
「あんたはそこそこ受験勉強をしてきてある程度の土台はあるかもしれないけど、荒北君はずっと自転車に乗ってきて、勉強もロクにしていないと思うのよ」
「…たしかに」
「ということは、彼は洋南を受かるにはたくさん勉強しなければなりません。そして棗、あなたも明早を目指すのならたくさん勉強しなければなりません」
「「つまり?」」
「……会える時間が、減る」
そうです。と2人は頷いた。
そうか、全く考えていなかった。
危ないのは、大学からではない。今、この時期、勉強によって時間が取れなくなる受験シーズン真っ只中!!
「……危ないかな」
「うん、危ない」
「危ないねぇ」
「……うわぁぁどうしよう!!」
私は2人の煽りに頭をガンッと机に打ち付けた。
どうしてこうも私は軽率だったんだ、アホか、呪いたい。
私を宥めるべく2人はよーしよーしと頭をなでてきた。そして1人が「でもさぁ」と声をあげる。
「心配しなくて大丈夫よ棗、荒北くんはきっと浮気なんてしないから」
「…え?」
「あんたが遠距離とか、会えなくなることに対して不安がってるのって荒北くんが浮気しないかなーってことの不安でしょ?」
「………え?」
「「え?」」
2人の言葉に私が疑問符を浮かべると、2人も疑問符を浮かべた。
浮気?靖友が、浮気?
「…それは、別に心配してない」
「「はぁ!?」」
私がそういうと、2人はバンッと机を叩いた。一斉にクラスの皆がこちらを見る。恥ずかしい。しかし2人は止まらない。
「それが不安じゃない!?あんたバカ!?」
「あ、そのセリフどっかで聞いたことある…」
「あんた、浮気とか不安じゃないの?」
「んー…だって靖友そこまで女の人に興味ないし、私も別に嫉妬とかしないし、信用はしてるし」
私がまたもひもひとご飯を食べながらそういうと「うわノロケられた」とうざそうな顔をしながら2人は言った。
だって、本当だから。
私は靖友が別の誰かを私と付き合っている間は好きにならないだろうなと、思っているから。
靖友はそんな中途半端なことはしないから。
でも、もしそうなったときは、
「じゃああんた、何が不安なの?」
その友人の言葉に、私は箸を止めた。
そして箸をおき、息を吸う。
「私が怖いのは、変わる心だよ」
もし彼が別の誰かを好きになるときは、
完璧に私を心から消してしまった時だ。
「それが、たまらなく怖い」
授業の本鈴が、学校中に響き渡った。
*