one more time

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「そうか、徒野さんも明早にするのだな」

「うん、やっとやってみたいなって思う分野が見つかって」

「そうか、明早か。じゃあまた俺と4年間一緒だな。」

「うん、よろしくね」



先生との2回目の面談を終えた私は、職員室に用がある靖友を待つべく、教室に残っていた。

そこに、同じように教室に残っていた東堂くん、たまたま教室の前を通り私達に気付いた新開くんとが混ざり、3人で大学の話をしていた。

そこで、実は何だかタイミングがつかめず未だに聞けていなかった靖友の大学の話をしてみたが、なんと彼らも知らないらしい。驚きだ。



「確かに荒北の志望校は俺たちも知らないな。」

「靖友はあんまり自分の話をしないからな。」

「そっかぁ…」

「やはり自分で聞くのが一番なのではないか?」



そうだよねぇと私はため息を漏らしながら机に突っ伏した。それを見て新開くんが面白そうに笑う。私は全く面白くなかった。



「靖友は徒野さん大好きだからな、聞いたらきっと教えてくれるさ。」

「そうだぞ。それに案外徒野さんの予想も当たっているかもしれん。
奴はあぁ見えてロードは本気だし、フクや隼人と共に明早を目指す可能性は高いぞ。」

「本当!?」

「ははっ嬉しそうだな。
俺と寿一もいるっていうのに」

「2人がいるのももちろん嬉しいよ!…だからあの、新開くん、ちょっと近いかなぁ」

「ん?そうか?」




東堂くんの言葉に喜んでいるのも束の間。なんだか距離をつめてきた新開くんに、私は顔をそらす。

相変わらずイケメンだから、なんだか至近距離で見ると緊張する。ていうかなぜ顔を近づけてくるんだ、なんだ一体。

その光景を見ていた東堂くんが「おいあまりいじめてやるなよ」と新開くんを一喝するが、新開くんは笑っているだけで、私と一定の距離を保ったまま離れようとしない。



「徒野さんは美人だから、大学に行ったらモテるだろうな」

「なっ…何をおっしゃいますか新開くん!」

「そうやって顔を赤くするところも、かわいいぜ」

「ちょ、あの、なんの冗談…」



なんだかやばい雰囲気になってきた。東堂くんもおいおいおい!と騒ぎ始めた。
まずい、このままじゃ心臓が破裂する。そう思ったときだった。

教室の扉が荒々しくバァンと開かれた。



「オイ新開テメェ!!何してやがンだコラァ!!」

「お、来たな靖友」

「や、や"す"と"も"〜〜〜!!」

「おい徒野さん、酷い顔しているぞ」



現れたのはもちろん我が最愛の彼氏靖友で、私は一目散に靖友の後ろにまわって背中にしがみつく。

靖友は私の頭を数回撫でた後、また新開くんへと牙を向けたのであった。



「ヒュウッお熱いねぇ、おめさんたち」

「ヒュウッじゃねェヨ!何棗にチョッカイだしてやがんだ!」

「からかってただけだぜ」

「テメェは前科あっからからかってる風に見えねェんだヨ!!」

「前科?」

「き、気にするな徒野さん!」



前科とは何だと思い私がその単語を呟くと、なぜか慌てふためいた東堂くんがそう弁明してきた。

すると私の腕を靖友が思い切り掴んだと思ったら、私の鞄を荒々しくひったくり、私の腕を引っ張ってズカズカと教室を出てしまった。





























***********






「ちょっと靖友くん、いい加減機嫌を直してくれやーい」

「ウッセ」



あれからずっとむくれ面をしている靖友に声をかけるが、彼はそう言うだけだった。

あぁもう、せっかく久々に一緒に帰れたっていうのに。



「大体てめェに隙があっから新開にも遊ばれんだヨ」

「うっ…でもまぁほら、新開くんはあくまでイタズラだから、ね?」

「チッ…ホントにてめェはニィブチャンだな」

「うっさいなバァカチャン」

「俺のマネしてんじゃねェヨ!!」



べしんっと靖友は私の頭を叩く。
酷い、彼女にする扱いなのか、これは。



「卒業までいじり倒されるつもりかヨ」

「そこまで新開くんも私のこといじんないよ。
あ、でも」

「何だヨ」

「たしかに今しっかりと言っとかないと、大学でもいじられたら嫌だなぁ。」

「……ハ?」



私がそう言うと、靖友から素っ頓狂な声が聞こえた。
私はそれを最初気にも留めず歩みを止めなかったが、ふと気付くと靖友は数歩後ろに突っ立ったまま、動いていなかった。

そしてその顔は、ただ目を見開いて、呆然と固まっていた。



「靖友?」

「オメー、それ、どーゆう意味」

「え?」



何が?そう問う前に、私はハッとした。
私、さっき、何て言った?

ナチュラルに、大学の話題出さなかったか?

気付いたとき、私は体から変な汗が吹き出た。
ついに、してしまった。

なんだか触れることのできなかった、禁断の話題に。



「や、靖友…」



震える声で彼を呼ぶと、彼は一気に私との距離を詰めてきた。
靖友の腕が、私の腕を強く掴む。



「いっ…」

「棗は、新開と同じ大学行くのかヨ?」

「!」



靖友の声が、とても切なく感じた。
どうして、そんな声で言うの。どうしてそんな悲しそうなの。

靖友、新開くんの大学知ってるの?知ってるんでしょう、その口ぶりなら。

なら、どうして、俺と同じだなって、喜ばないの?
あなたも、明早で、2人とロードを続けるんじゃないの?


それとも―…



「お前は、新開や福チャンと同じの明早に、行くのか?」

「っ!」



その口ぶりから、私は全てを察してしまった。
靖友の目が、私を射抜く。

口が震える、手が震える、目が霞む。






「やすともは、明早じゃ、ないの…?」



震える声で、私は靖友に聞いた。


お願い、お願い靖友。
自分は、明早だと。2人またロードやるんだァって、言って。

























「俺、洋南に行くんダヨ」










*

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